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いつかの春に君と 〜 番外編 アンソロジー集〜
第2章 愛のバルカローレ
「せっかくですが、私は隣の部屋に控えております。
どうぞお二人でごゆっくりお過ごしくださいませ」
さらりと答えると、完璧な手順で二人のカップに薫り高いダージリンを注ぐ。
そして優雅な仕草で一礼し、サンルームを後にした。

「相変わらず、僕には冷たいな。八雲は…」
わざと揶揄するように言うと、瑞葉は小さく笑った。
「そんなことないよ。…あれでいつも和葉のことを気にしているんだよ。特に士官学校に入ってからは…」
「どうかな。…八雲の頭の中は兄様のことで一杯だと思うけれどね」
目の前の兄を改めて見つめる。
裾の長い部屋着の下に見える白く美しく華奢な脚…。
素足の爪は桜貝を埋め込んだように繊細で、ため息が出るほどだ。
…しかし、この脚は大地を踏みしめることはおろか、歩くこともできない。
…結局、瑞葉は生まれてこの方、自力で歩くことはできなかった。
脚力の弱さと、幼い頃に患った熱病の後遺症ではないかと主治医は診断したが、原因は定かではなかった。

だから文字通り、八雲が瑞葉の手足となり二十四時間影のように寄り添い、傅いているのだ。
八雲なしでは、瑞葉は恐らくこの年まで生き延びることは不可能であっただろう。
それほどまでに、八雲は瑞葉に命を投げ出すほどの献身で仕え続けているのだ。

「ここの生活はどう?慣れた?」
サンルームを見回しながら尋ねる。
離山の別荘は、英国趣味の祖母の薫子が細かく指示を出し贅を尽くし、細部まで凝ったチューダー調の造りになっている。
サンルームもたっぷりと広く、冬でも太陽の光を取り入れられるようになっているので明るく暖かい。
病弱な瑞葉の健康には良いだろう。
この別荘を薫子は瑞葉を廃嫡にすることの慰謝料代わりに分け与えたのだ。
使用人は執事の八雲と通いの料理人、掃除婦、庭師だけだが仕える主人は瑞葉だけだし、部屋も十程度のこじんまりした別荘なので丁度良いのだろう。

資金はさすがの薫子も潤沢に渡しているし、母親の千賀子の実家が瑞葉を不憫がり、相当の資金援助をしている。
だから生活には全く不自由はしていない。

けれど、この別荘を訪れる者は極めて稀だ。
千賀子は薫子の目を盗み、時々別荘を訪れるようだが、父親は薫子の逆鱗に触れることを恐れ、滅多に足を運ばない。
もちろん来客もない。
瑞葉は、十代の若さで世捨て人のような生活を送っているのだった。



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