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悦楽にて成仏して頂きます
第15章  決戦


 翌日目を覚ますと、昼過ぎ。
 寝ている間にノックの音が聞えた気がするが、朝食だったのかもしれない。
 少しして、またノックの音。
「楓。入るぞ」
 響揮が入って来て、急いでドアを閉める。キッチンにいるらしい琴音には、聞かれたくない話のようだ。
「どうしたの?」
「早くメシ喰え。社に行く」
「何か、あったの?」
 響揮の苦い表情。
「結界が、社まで数メートルになってる」
「そんな……」
 以前は階段の終わり近くまで、20メートルはあったのに。
「じゃあ、すぐに……」
「お前は、一昨日から殆ど喰ってないだろ。先に行くから、お前は後から来い」
 響揮は正座すると、両手の拳を着いて深く頭を下げた。
「お前の能力が、必要なんだ。頼む」
「解ったから。そんなの、やめて……」
 顔を上げると、響揮はゆっくりと立ち上がる。
「呪文は覚えたか?」
「大丈夫」
「オレが桜火の動きを止められるのは、1度で10秒。それを繰り返すから、お前は呪文で力を溜めろ。それを一気に、桜火に放て」
 やはり、桜火との決戦。
「但し、オレが体力を消耗していくと、止められる時間が短くなる。オレが倒れても、死んでも、お前は桜火を倒せ」
「そんな……」
 そんな中で、集中出来るだろうか……。
 だが、やるしかない。響揮の願いは、社を守る事だ。それと、桜火に真実を解ってもらう。
「解った。食事をしてから行く」
「道具は、オレが先に持ってくから。このリュックか?」
「うん。後はこっち」
 枕の下から短刀と数珠を取って渡す。
「じゃあ、先に行ってるからな」
 裳の箱と私のリュックを持つ響輝を琴音と一緒に見送り、キッチンの椅子へ座った。
「お粥を、用意しておきました」
「ありがとう……」
 心遣いが、嬉しい。
 急いで食事をする私の前で、琴音は穏やかに箸を動かす。
 琴音は何も知らない。
 桜火への、響揮の思いも。そして、響揮への私の想いさえ。
 どれも行き違いばかりだが、琴音の思いだけは真っ直ぐ響揮に向いている。
「ごちそうさま。社へ行くから。留守番、よろしくね」
「はい」
 今度は、琴音に見送られる立場。


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