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悦楽にて成仏して頂きます
第15章 決戦
玄関を開けると、琥珀が付いて来る。
「琥珀は家にいなさい!」
「ニャー!!」
反論するような鳴き方。
これから何があるのか、琥珀にも解っているようだった。
少し迷ったが、琥珀なら響輝の助けになるかもしれない。
私が力を溜めている間、戦うのは響輝の役目。琥珀なら、強い能力を持っている。
「琥珀っ」
琥珀が先にエレベーターの前に行ってしまう。
「行ってきます……」
もしかしたら、私が琴音に会えるのも最後かもしれない。それくらい、覚悟を決めた戦い。
「行ってらっしゃい」
何も知らない、琴音の柔らかな笑顔。彼女に悪気が無いのは解っているが、そんな表情が酷く不釣り合いだと感じた。
「じゃあね……」
エレベーターで降り、鳥居をくぐってから階段を駆け上がる。琥珀は私より早く登り、途中で「ギャー!」と鳴いた。
危険の知らせ。
上まで行くと、数メートル離れて響揮と桜火が立っていた。
「へえ。楓さんまで来てくれたんだ」
「お前は中で支度しろ」
響揮が小声で言う。
私はすぐ社へ入り、急いで裳に着替え始める。その間も、外からの声が聞こえてきた。
「兄さん。オレに勝つ気なの? 能力の差は、解ってるよね? それに最近の僕は、どうしてか、力が漲(みなぎ)ってくる感じなんだ……」
霊でいる時間が長いほど力が強まると、響輝は言っていた。桜火は自分の死に、本当に気付いていないのだろう。
「社だけは、絶対に渡せねえ。桜火。お前は、事実を、解ってんのか?」
響輝とは対照的な、桜火の楽しそうな笑い声。
「兄さんこそ。自分の能力が解ってないの?」
「違う! 桜火……。お前は、もう……。現世の者じゃねえんだよ」
「何言ってるの?」
桜火は笑っているだけ。
急いで着替え、扉を開けた。
「楓さん。綺麗な裳だね」
紐を結びながら外へ出ると、桜火がニッコリと笑う。
「これから兄さんを倒すけど、後の事は心配しなくていいからね。僕の助手になればいいよ」
また桜火が笑っている隙に、響揮は小声で「呪文を始めろ」と言ってくる。それと同時に、懐から出した紙を私の髪に巻き付ける。留めたのは、水晶の付いたヘアゴムだった。