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悦楽にて成仏して頂きます
第15章 決戦
「楓っ、今だ!」
「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前っ!!」
左手を桜火の方へ突き出す。そこから大きな水の炎が出て、桜火を包み込む。
「くそっ……。楓、さん……。どう、して……」
桜火は、水の炎を振り払うように暴れ出した。
起き上がった響揮が、桜火に1歩近付く。
「お前は、3年前に死んだ者。病院で、意識を亡くしたそのままで……。遺体はすぐ病理解剖へ回され、陰陽師としての経を、あげられなかった……」
桜火は暴れるのをやめ、水の炎の中で響揮の話を聞いている。
「……僕は、どうして生まれてきたの……? そんな短い命なら、いらなかったっ!!」
水の炎が、段々と白みを帯びていく。
「走るのさえ禁止されて。人生の殆どを病院で過ごすなんて……。兄さんと一緒に、修行がしたかった。一緒に遊びたかったっ!!」
心からの叫び。琥珀は、大人しく聞いている。響揮は、また1歩桜火へ歩み寄る。
「兄さん。大丈夫だよ。消滅するって、解ったから……。楓さん。ありがとう。これからも、修行に、励んでね……」
「桜火っ!」
また近付いた響揮を、桜火がジッと見つめた。
「兄さんも、ありがとう。大分、迷惑をかけちゃったね。僕を、許して、くれる……?」
「最初から、憎んでなんてねえよ……」
「良かった……。ありがとう。さようなら…………」
眩い閃光の中、桜火の姿が消えていく。
桜火がいなくなった場所を見つめてから、響揮は空を見上げていた。まるで、涙が零れないようにしているように見える。
消滅した桜火は、天界へは行かれない。それなのに、遠い天界を見つめているようでもあった。
「着替えるぞ……」
そう言って社へ入る、響揮の後を追った。彼は振り返らず、奥の部屋へ行ってしまう。
私も裳から普段着に着替える。
最初は、社の奪い合いの兄弟喧嘩だと嘘を聞いた。その後真実を聞いても、憎しみ合っているように見えていたのに。
2人の間には、強い絆があった。
幼い頃から、響揮と遊ぶのを夢見ていた桜火。きっと響揮だって桜火と遊んだり、一緒に修行をしたかったはず。
響揮は、桜火の能力を認めていた。