この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
悦楽にて成仏して頂きます
第2章 祈祷師
「ご家族……」
「ああ。息子が死んでから1年近くも、家で不思議な事が続くって。オレんトコに両親が来たんだ。息子の部屋の物の位置がズレてたり、真夜中にシャワーを使った形跡があったり。色々とな」
さっきの霊は、自分が死んだと気付いていなかった。今まで通り、実家で普通に生活していたのかもしれない。
それに、「僕は悪く無い」と言っていた。あのまま放って置けば犯人に取り憑き、呪い殺したかも知れない。
「これで、霊障も無くなるだろ。ヤツも成仏出来たし。人助けなんだから。金は、その対価だよ」
そう言われても、やはり複雑だ。
「コレらを使わないのが、一番いいんだけどなあ。古いのは、祈祷し直しておくから。あっ、その装束も脱げよ。一緒に持って帰るから」
そう言われても、響揮の前で下着姿にはなれない。私は適当な部屋着をクローゼットから出し、キッチンへ行って着替えてきた。
響揮と出会ったのは、去年の春のバイト帰り。帰り道は繁華街で、風体(ふうてい)からして、最初はホストの呼び込みかナンパだと思った。
その時は、まだ東京に来たばかり。必要以上に警戒していたが、「お前、霊が見えんだろ?」と言われて驚いた。
子供の頃両親に話して以来、誰にも話していなかったのに。
やっと現れた理解者。それを嬉しくも感じた。いつも心の中では誰かに解って欲しかったが、友達に話す勇気は無い。冗談にされて済めばいいが、言動がおかしいと離れていかれる可能性もある。噂になってしまえば、好奇の目で見られる可能性も。
黙っていれば、穏便に済む。そう思って口をつぐんでいた私にとって、響揮の存在は本当に大きかった。
「そう言えば……。最近たまに、祈祷中に、邪魔が入るんだよなあ……」
「邪魔?」
「まあ、お前に話しても、しょうがねえけどな」
確かにそうだろう。私に相談しても、解決策など見つかるはずもない。祈祷師の事など、祈祷師じゃない私には解らなかった。
でも、話してもらえるのは嬉しい。