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悦楽にて成仏して頂きます
第2章  祈祷師


「これで夜明けまで、霊はベランダで動けねえから。明日からの外出は、自分で何とかしろよな」
 今の術で少しは見直したのに、これが響揮を適当だと思ってしまうところ。祈祷師というのは、いつでも真面目だと思っていたのに。
 明日は、レストランでのバイトもある。本当はバイトを辞めてもいいくらい祈祷料を頂いているが、友達にも、一人暮らしでバイトしていないのをおかしいと思われてしまう。
「響揮の力で、すぐ成仏させられないの?」
「ここではムリだ。念が強すぎる。社に行ったら、試してみるけどな。セックスの欲求がある霊は、成仏しづれえんだよ。ヤツはお前の事も、もう解ってるし」
 私は溜息を漏らした。
 ずっと悩んでいた、霊が見える特殊能力。それを活かせるようになったのは嬉しいが、考えていたのと方向性が違いすぎる。
「さてと。たまには、お前も呑みに行くか?」
 いつもながらの、軽い口調で言われた。外には、成仏出来ない霊がいるのに。
 私の所へ来たなら、その霊を成仏させるのは私のシゴト。セックスに未練を持った霊は、響揮だけでは成仏が難しいと以前からも聞いている。解ってはいても、やはり響輝に頼りたくなる。
 今日はもうセックスをする気になれないし、呑みに歩いている時間も無い。
「レポートがあるって言ったでしょう!?」
「そっか。レポートは、頑張らねえとなっ」
 響揮が真面目を装った顔で言うのが、何故か余計に腹立たしい。
 彼の学歴について訊いた事は無いが、レポートに苦労した経験は無かったのだろうか。
「呑みになんて行ってないで、すぐ社に行って、成仏を試(こころ)みてよ」
 今度は響揮の溜息。
「バーカ。だから言ってんだろ? セックスに未練を持つ霊は、特に成仏しづれえって。その為に、お前を見つけたんじゃん」
「それは、解ってるけど……」
 響揮にも、少しは祈祷をして欲しい。本当の祈祷師は、彼なのだから。
「じゃあな。頑張れよっ」
 それだけ言うと、響揮はバッグを持って出て行ってしまった。
 ドアが閉まると、さっきより大きな溜息をつく。


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