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悦楽にて成仏して頂きます
第1章  特殊能力


 心霊スポットが好きな友達もいるが、普段から見える私は興味が無い。それに、そんな場所へ遊び半分で行くのは危険。特殊能力の無い人間の方が、霊も取り憑(つ)きやすい。
 講義が終わり友達と話しながら教室を出る時も、彼はフワフワと後を付いて来る。
 霊も解っているはず。自分の未練を、晴らしてくれる人間を。その為には、まず霊が見えなければいけない。
「ごめん。今は、興味無いから……」
「えー。楓、来てくれないのぉ? 欠員が出たのにぃ」
 友達数人に合コンに誘われたが、霊を連れて歩くのも面倒だ。それに今、合コンには本当に興味が無かった。
「楓がいるとー、相手が盛り上がるのにー」
 みんなからはよく、人気アイドルに似ていると言われる。目が大きく、口角の上がった唇がそっくりだと。童顔に長い髪、150センチと小柄なせいもあるだろう。自覚は無いが、街で間違えられたりもする。
 大学入学の為、田舎から出てきて1年と少し。東京の生活には慣れたが、霊の多さには驚いている。
 田舎といっても都会の方だと思っていたのに、やはり東京は色々な意味で違う。
 1人暮らしの1DKのマンションに帰って、除霊を始めなければ。私を頼ってくる霊の目的は解っている。
 後少しで、自由な夏休みなのに……。


「どうぞ、お入りください」
 掌(てのひら)を合わせ、願いながら言う。こうしないと、霊は私のマンションへ入れない。
 祈祷師に、結界(けっかい)を張ってもらい、お札(ふだ)も貼ってある。そうじゃないと、マンションの中が霊だらけになると言われた。
 恐怖感はなくても霊と同居するなんて、見られているようで気になる。私には、いつも姿が見えるから。
 そう広くない部屋の中央に立ったままの霊は、どこを見ているのかよく解らない。
「僕は多分、3ヶ月くらい前に、確か、バイクで、事故に遭いました……」
 多分や確かが多くなるのは、霊になると段々と現世(げんせ)の記憶が薄れていくせい。
 このままだと全てを忘れ、浮遊霊(ふゆうれい)か地縛霊(じばくれい)になる。
 浮遊霊はどこにでも現れ、名前通り浮遊を続ける霊。地縛霊は自分の死んだ場所から動けず、そこが心霊スポットになってしまう。


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