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悦楽にて成仏して頂きます
第4章 響輝
タクシーに乗って20分ほどで、大きなマンションの横にある鳥居前で降りる。
周りは立派なマンションばかりで、鳥居のある一角だけが異様とも言える風情(ふぜい)。
久し振りの社。
以前は社まで祈祷料を取りに来ていたが、ここ半年は響揮の方から来るようになった。勿論、私は電車で。
夜中の社までの階段は、少し不気味。
いくら霊は平気でも、遊園地のお化け屋敷などはそれなりに怖いと思う。お化け屋敷には、本当の霊も紛れ込んでいることもあるし。髪を引っ張られたり、足を掴まれる人がいるのはそのせい。
「ねぇ、響揮。ちょっと待って」
階段の途中で足を止め、森林の方を見た。
そこにいたのは、赤いワンピースを着た髪の長い女性。私と変わらない年齢に見える。
「もう浮遊霊になってるけど、悪い念は感じねえ。行こう。どうせ、あいつは、これ以上社には近付けねえから」
女性はこちらを見ているが、響揮は前を向いて歩き出す。
悪さをしない霊は、そのまま放って置く。下手に成仏させようとすると、多くが暴走するらしい。既に浮遊霊や地縛霊になった霊なら、暴走は私が知るより恐ろしいとも聞いていた。
長い階段をやっと上り終えると、社の中へ。
雰囲気は、以前と変わらない。
以前ネットで調べたが、貼られた布は護符(ごふ)のようなものらしい。焚火には、やはり使った後が残っている。床は板張りだから、少しひんやりとして気持ち良い。
「奥で着替えてくるから。お前も着替えろ」
「うん」
響揮は、横の扉から奥へ行く。その間に、私も急いで装束に着替えた。
その場に正座して待っていると、少しして彼が出てくる。その姿に、目を奪われてしまった。
まるで、ドラマで観た陰陽師(おんみょうじ)のような姿。
紫の着物の上に白い衣を着け、腰の部分は編んだ紫の紐で縛られている。袴の裾は平安時代の貴族のように膨らみがあり、足首の所で締まっていた。
頭には、長く黒い烏帽子(えぼし)。
いつもは銀のピアスをいくつもしているが、今は両耳に1つずつ大きめな翡翠のもの。
以前祈祷料を取りに来る時は、電話をしてからだった。この姿を、見せないようにしていたのだろうか。