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悦楽にて成仏して頂きます
第4章 響輝
焚火の前に座った響揮が、私を見て口を開く。
「数珠と短刀を身に着けて、もう少し前に」
「は、はい」
神妙な様子に、いつもとは違う敬語で返事をした。
言われた通りの物を身に着け、少し前へ出る。
横にあった藁(わら)にマッチで火を着けると、焚火の後へ投げ込む。そこにお札を何枚も入れ、反対側にあった木片を入れていく。
火は、すぐに炎となる。
「お前はただ、霊の冥福を祈れ」
「はい……」
私は目を瞑って手を合わせた。
響揮が、何か呪文を唱え始めた。私は呪文など知らないが、ただ霊の冥福だけを祈る。
呪文の途中にも、彼が木片を足す音。
こんなに真面目な響揮を、初めて見た。最初に声をかけられた時から、ナンパなやつだと思っていたのに。
いつも今風のチャラい格好をしていて、話し方も雑。そんな彼ばかり見てきたせいで、別人のような様子に戸惑いもあった。
「集中しろ!」
心の中を、見透かされているのだろうか。
響揮の言葉に驚き、私は霊の冥福に集中した。
どれくらい経っただろう。彼が立ち上がる衣擦れの音に目を開けると、空中に指先で何か描き始めた。
気が付くと、焚火の火が消えそうになっている。
「雨宮楓に力を!!」
また座った響揮は、火が消えるまで手を合わせてから私を見る。
「終わりだ」
「これで、私の能力が、上がったの……?」
「そうだ。着替えてくる。お前も着替えていいぞ」
すぐに彼は、奥へ行ってしまった。
私は数珠などを片付けてから、私服に着替える。
力と言われても、どんなものなのか解らない。セックスでだが、除霊する力はもう持っている。
「さて。呑みに行くかっ」
私服になって出てきた響揮は、いつも通り。ピアスも銀色の物に戻っている。
疲れていると言ったが、結局私は大きなバッグを持ったまま夜の街へ連れ出された。