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悦楽にて成仏して頂きます
第4章  響輝


 響揮の知り合いの店だという、豪華な個室。
 室内は黒で統一されていて、灯りも薄暗い。恋人同士なら、似合うシチュエーションだ。
 長めのテーブルとソファーは、窓際に寄せて置かれている。
 大都会の夜景。こうして見るのは初めてでも、この中にどれくらいの霊が彷徨っているのか考えてしまう。
「今は、楽しいコトだけ考えようぜ」
 また心を読まれていたような、響揮の言葉。切ない思いが、表情に出ていたのかもしれない。
 彼の言う通り、今くらいは楽しんでもいいだろう。
 店に入る時響揮の知り合いのオーナーは、「女性連れなんて珍しいね」と本気で驚いていた。
 よく呑みに出ている話は、彼から聞いている。響揮が遊び人だと思っていた私は、女性連れが珍しい事に驚いてしまった。彼なら、女性にモテそうなのに。
 乾杯をしてから、私は初めての名前のカクテルを口にする。
「あー。疲れたー」
 響揮が、首や肩を動かしながら言う。
「お疲れ様」
 何となく言ったが、私にどんな力がついたのかまだ解らない。
「あっ、忘れてた」
 彼がジーンズのポケットから、翡翠の着いたネックレスを出す。
 小さな緑の石の周りに、シルバーの装飾。それだけで翡翠と解るのは、元々の特殊能力のお蔭。
 力のある石なら、感じ取ることは出来る。
「ホラ。いつもコレを着けとけ」
 差し出されて手に載せると、思った以上に物凄いパワーを感じた。
「さっき、一緒に祈祷しといたから」
 響揮に急かされ、私はネックレスを着ける。夜景も見える大きな窓は室内が暗いせいで、鏡代わりにもなる。
 その瞬間、冷たいはずの翡翠からの温かさに、全身が包まれるよう。実際に熱を持っているわけではなく、ふんわりと心地好い。
 さすがに響揮が祈祷しただけある。
 このネックレスなら、普段でも違和感は無いだろう。
「何かあっても、ソレがお前を守ってくれるから」
 その言葉を信じられた。この翡翠のネックレスは、確かなパワーを持っている。
「ねぇ。私に、どんな力がついたの?」
「力を強くしただけだよ」
 そう言うと彼は、飲み干したグラスに頼んであった氷とウイスキーだけを入れた。


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