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悦楽にて成仏して頂きます
第5章 目醒め
「ヤツの死に対しての、献杯(けんぱい)だ。遺体には、成仏出来る経を唱えてきた」
献杯というのは確か、お葬式関連での乾杯の事。以前、親戚が亡くなった時に聞いた。
「献杯」
そう言って響揮が、ビールを呑み始める。私も「献杯……」と言ってから、少し口を着けた。
あの霊が成仏出来たなら、それでいい。
もしかして響揮が呑み歩いているのは、献杯の為かもしれないと思った。
彼は毎日、何体もの霊を成仏させている。
「ねぇ。200万円て。響揮の祈祷って、そんなに高いの?」
「いや。内容によって、10万くらいからかな。ヤツの両親が全身バリバリのブランド服で来て、これでお願いしますって、200万出されたから」
祈祷に、相場はあって無いようなものかもしれない。その人が響揮に払いたいと思う額が相場になるのだろう。
「お前、やっぱ強くなったな。霊力」
「あっ。短刀だけで……」
あの時は一所懸命だったが、全裸だったのを思い出した。絶対、響揮に見られたはず。恥ずかしくて火照る頬に、ビールの缶を当てた。
「翡翠のネックレスのお蔭も、あるだろうけどな」
「これ?」
私は、ずっとしたままだった翡翠のネックレスを摘まむ。これにそんな力があるなんて、改めて驚かされる。
「ああ。それ自体にも、除霊の力があるから。いいか。どんな時でも、肌身離さずいるんだぞ」
「解った」
セックスの時、ネックレスをしていて正解だったのだろう。
「お前、ここに越して来いよ」
「えっ!?」
「お前んち、霊で凄いぞ。帰らねえ方がいい。近付くのもやめろ」
私のマンションには響揮が結界を張り、お札だってあるのに。
「誰かが、邪魔した。強い、特殊能力の持ち主が……。もう1つ空き部屋があるから。さっきの部屋より広えから、お前の荷物なら全部入るよ」
「誰かが、邪魔って……」
「信じられねえなら、社に行くぞ。あのバッグを持って、一緒に来い」
響揮はビールを飲み干すと、さっさと玄関へ行く。
急いでバッグを取りに行き、リビングで一応中身を確かめていた。
「ニャー」
琥珀がバッグに入ってしまう。
「ちょっとぉ、琥珀。出てよぉ。使うんだからぁ」