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悦楽にて成仏して頂きます
第5章 目醒め
午後。私は大学の学食で、アイスミルクティーを飲みながら雑誌を見ている。
この数日間、響揮の家に引っ越した後の片付けと、大学で忙しかった。その間霊が来ないのは、救いではあったが。
荷物の詰め込みまで全てやってくれる引っ越し業者で、響揮の家での配置もやってくれた。でも段ボールの一部はそのままにしてもらい、自分で片付けている。
私の安いベッドはバラして、広いウォークインクローゼットに置かせてもらった。元からある客用のベッドの方が広いし、寝心地もいい。
断ったが、引っ越し費用は全て彼が出してくれていた。一度そう言ったら現金を渡そうとしても、受け取らないだろう。響輝は、オレの監視ミスだとも言っていた。
友達が集まってくるまでは、あと30分くらい。
「君……」
顔を上げると、目の前に見知らぬ少年が立っていた。
真っ直ぐな黒髪の前髪が長めだが、それでも解る整った顔。でも、大学生にしてはかなり幼い印象だ。
「霊が見えるんでしょう?」
初めて響揮に会った時、言われたのと同じ台詞。
鳥肌が立つような感覚だった。
前に座ると、彼は肘を着き手を組んで私を見る。
「雨宮楓さん。今は、神明響揮の手伝いをしてるんだよね」
私だけじゃなく、響揮の名前も知っているなんて。
誰かが聞いていないかと、辺りを見回した。
響揮について、誰にも話していない。話せるはずがない。近くには誰もいなくて、少しホッとした。
「僕は桜火(おうか)。響揮より、僕に付いた方がいいよ。響揮は、もうすぐ終わるから」
「え……」
彼は、私にメモを差し出して行ってしまう。メモには、携帯番号と桜火という文字。
祈祷師などには、通り名を使う者もいる。響揮も、本名なのかまだ解らない。
桜火も、私に特殊能力があるのを言い当てた。それは、彼にも同じ能力がある証拠。
響揮は有名だからサイトか何かで知ったのかもしれないが、勿論私の名前なんて掲載されていない。
私の名前だけなら、大学の誰かに聞いた可能性もある。でも、私と響輝が結び付かないはず。
響揮はそのうち終わる。とも言っていた。響揮は、桜火を知っているのだろうか?
「楓―。早いねー」
友達が来て、私は雑誌にメモを挟んで閉じた。