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悦楽にて成仏して頂きます
第5章 目醒め
「ただいまー! 響揮っ、響揮っ!」
大学が終わり、急いでマンションへ戻った。
「シャー!」
出迎えてくれた琥珀は、何故か威嚇の鳴き声。外に霊はいないのに。
頭を撫でてから、リビングへ行く。
ここに越して来てから響揮の本名を確かめようとしたが、表札は白いまま。エントランスの郵便受けにも、502という部屋番号しか書かれていなかった。
琥珀のエサは、朝と夜の8時。それだけは聞いたが、響揮はよく昼近くまで寝ている。琥珀がお腹を空かせるからと、エサ係は私になってしまった。大学まで電車の乗り換えなしで行かれるようになったから、その時間なら間に合う。
居候の身に出来るのは、その程度。僅かな家賃さえ受け取ってもらえない。
私と琥珀の声に気付いたのか、響揮が一番奥の部屋から出てくる。
「どした? なんかあったのか?」
「これ……」
メモを差し出し、大学で見知らぬ少年から渡されたことを話した。
「桜火……」
響揮の声が聞こえたのか、リビングに来た琥珀が「ギャアー!」と鳴く。
「知ってるの? その子が……。もうすぐ、響揮は、終わるって……」
「気にするな」
そう言うと響揮は、キッチンでメモに火を着けて燃やしてしまう。琥珀は桜火という名前が解ったのか、毛を逆立てている。
「あいつとは、関わるな……」
「だって。言われたんだよ? 霊が見えるだろうって。響揮の手伝いをしてる事も」
「あいつと関わりてえなら、今すぐここを出てけ。社にも来るな!」
そう言うと、響揮は玄関から出て行ってしまった。
響揮を、怒らせてしまったらしい。でも私には、何が原因なのか解らなかった。
近付いて来たのは、桜火の方から。彼も、祈祷師なのだろうか。絶対に、何かしらの特殊能力を持っているはず。
響揮が嫌がるなら、今後桜火に会っても無視すればいい。
今の私は、響揮が傍にいなければ命さえ危ない状態。
元々特殊能力は持っていたが、響揮によってより強力になった。だからと言って、自分で自分を守るほどの力は無い。
中途半端な能力者。
溜息をつきながら、自分の部屋へ向かった。