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悦楽にて成仏して頂きます
第7章 桜火
響揮は、出来上がったコーヒーを私にも出してくれた。
「あのね。私……」
俯いてはいたが、前に座った響揮の視線を感じる。
「全部、知りたい。霊が来る、本当の理由とか、桜火の事とか……。注入の、儀、とか……。そうじゃないと、響揮を、信用出来なく、なりそうで……」
「そうだよな……」
響揮が溜息を漏らす。
どうして2人が、敵対心を持っているのか。桜火は依頼を受けていないから、客の奪い合いじゃないはず。
「桜火は……。オレの、弟だ」
驚いて顔を上げた。
そう言われれば、整った顔の特殊能力者が近くに2人もいるなんて不思議だ。顔付きは違って見えるが、髪型や年齢のせいかもしれない。
「桜火が物心ついた頃には、オレは、修行と勉強で手一杯だった。桜火と遊んだ記憶なんて、殆ど無い」
祈祷師としての修行がどんなものか解らないが、並大抵ではないはず。
「霊が、私の所へ来るように、響揮が、祈祷してるの?」
「ああ……」
それを聞いても、憎しみのような感情は全くなかった。響揮の助手は、私だけ。セックスについて未練がある霊なら、私へ任せるしかないのだろう。
「それは、別にいいの……。確かめて、おきたかっただけ……」
響揮は私を見てから、コーヒーを飲む。
「でも……。どうして、仲良くしないの? 兄弟でしょう?」
「社だ……。社の後継者は、1人だけ。今はオレが親父から継いだけど、桜火も、社を狙ってる。祈祷師としてやってくには、あの社が必要なんだ」
後継者問題といっても、世間一般的なものとは少し違うだろう。2人とも、かなり強い能力の持ち主。
「さっき、桜火の掌から、赤い光が出たの。何なの? 響揮は、緑でしょう?」
「名前の通り、桜火は火の使い手。オレの能力は、緑色の翡翠」
「じゃあ、桜火って名前も、響輝も、通り名なの?」
響揮が首を振る。
「桜火は、生まれた時から、炎のオーラをまとってたって聞いてる。それは、強い能力の持ち主って証拠だ。オレも、渡した名刺が本名」
それだけ言った響揮は、俯いて暫く黙ってしまった。