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悦楽にて成仏して頂きます
第7章 桜火
「いいよ……」
「え?」
「注入の儀。しても、いいよ……」
驚いた表情の響揮が、ソファーに座り直す。
「バカ! 何すんのか、桜火から聞いたんだろ?」
「うん」
「オレと……」
私は、響揮の目を見つめた。
恥ずかしさはあるが、時間の無い霊の為なら仕方ない。
子供の頃から、ずっと何かが見える特殊能力。それを隠していた世界から脱出させてくれたのは、響揮だ。
「ホントに、いいの、か……?」
「うん。来週でも、間に合う?」
「あ、ああ。後、2ヶ月以上、あるから……」
女の方がこういう時に、度胸があるのかもしれない。
霊が見える為に苦しんでいた私を、救ってくれた響揮。その恩を返したい。
「じゃあ。来週の、土曜日でいい? それまで、霊は送らないで?」
「ああ。解った……」
私は冷めたコーヒーを飲み干し、自分の部屋へ戻った。
平日の午後に、友達数人と出かける途中。
他愛ないおしゃべりをしていると、現れたのは詰襟の制服を着た桜火。通学鞄も手にしている。
高校生は、まだ夏休みに入っていない。
「楓さん。こんにちは」
何もなかったように話しかけてきた。
「あっ、この前の美少年!」
以前桜火に会った友達が、声を上げる。
「その制服って、旺蘭(おうらん)学院でしょ?」
「凄い高校じゃん。でもぉ、この近くじゃないよねぇ?」
他の子も、桜火に興味津々。
確かに美少年だし、旺蘭学院は名門校。興味を持つのも、解る気がした。
「桜火と言います。楓さん。相談があるんですけど……」
キャーキャーと、周りが囃し立てる。
そんな友達にまた知り合いの知り合いだと言い、桜火と、友達とは別の方向へ歩き出した。
「どうしたの?」
「お茶でも飲もうよ。命の恩人とね」
そう言って、桜火が駅前のファミレスへ向かう。勝手なイメージで、彼ならもっと静かな場所を好むかと思っていた。
「こういう騒がしい所の方が、意外と話しやすいから」
心を読まれているように言われて驚いたが、表情に出ていたのだろう。
ドリンクバーからジュースを持って席に着くと、桜火が真面目な顔付きになった。