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悦楽にて成仏して頂きます
第8章 注入の儀
私はキッチンの冷蔵庫からジュースを持って、響揮の向かいへ座った。
「いいか? オレの守護は、宝石の翡翠。だから、翡翠色の、緑の術が出せる。解るよな?」
確かに、響輝がいつも出すのは緑色。
琥珀は琥珀石が守護だから、琥珀色なのだろう。
「うん」
「桜火の守護は火だって、前に言ったろ?」
桜火は生まれた時から赤いオーラに包まれていた、と聞いたのを思い出す。
「お前は水だ。注入の儀で、水の守護が目覚めた」
「水……」
「これで桜火を……。倒せる」
響揮は、社にいる時のような真剣な表情。
「私の、水の力で?」
「ああ」
先に持ってきていた水を飲むと、響揮が話し出す。
「じゃんけんだよ。オレや琥珀の宝石系は、炎に焼かれる。けど水がかかっても、宝石は洗われてより輝くだけ。その代わり宝石は石だから、水を堰き止められる」
「じゃあ……。水で、火を消せる……?」
「強くなればな。弱い火の使い手なら、宝石でも勝てる。だけど、今の桜火は強い」
だから桜火は、自分の方が響揮より強いと言っていたのだろう。
「兄弟喧嘩に、私を使うの?」
「違う……。どうしても、成仏、させられない霊も、元は、火の、能力者、なんだ……」
響揮の様子がおかしい。嘘をついているのが見え見えの話し方。
「嘘だよね? 本当の事を教えて。そうじゃないと、私は協力しない」
響揮の大きな溜息。
授かった術を、兄弟喧嘩に使うのは気が進まない。響揮には悪いと思うが、2人の問題は他の方法で解決するのがいいだろう。
それに響揮も以前、桜火が社を継ぐべきかも、言っていた。響揮のこの優雅な生活を守る為の祈祷なら、協力したくはない。
それこそ、もう一度兄弟で話し合うべきだ。桜火ももう、世の中が解らない年齢ではない。
「解った……。全部、話すよ……」
響揮は、目の前の古書を閉じた。
「兄弟喧嘩なんかじゃ、ねえんだよ……。あの社は、オレが継ぐしかない……」
「だから、それを争ってるんでしょう?」
「わりい。それが、嘘なんだ……」
私は混乱しそうになる。
「でも、桜火はこの前……」
「また、桜火に会ったのか?」
「隠しててごめん。響揮は、桜火を嫌ってるみたいだから……。桜火は社を継いで、早く後継者も作りたいって……」
私にはもう、何が嘘で何が本当なのか解らない。