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悦楽にて成仏して頂きます
第9章 琴音
響揮が玄関を開けると、そこに立っていたのは和服姿の美少女。
あどけない顔に和服が似合い、肩までの真っ直ぐな黒髪。大きな瞳に、口角の上がったピンクの唇。肌が白いせいで、それらが際立って見える。身長は、私より少し大きいくらいだろう。
「響揮さん。お久し振りでございます」
ゆっくりと頭を下げた少女の手には、少し大きめの和柄のバッグ。
「取り敢えず、入れよ……」
「失礼致します」
響揮と私がソファーのいつもの場所に座ると、少女は響揮から少し離れて座った。
「こいつは、琴音(ことね)。なんつーか。まあ、親父の、知り合いの、娘だ……」
歯切れの悪い時の響輝は、いつも何か隠している。
「響揮さん。こちらのお方は?」
琴音が、私を掌で示す。
「雨宮楓。オレの助手で、まだ修行中。今、ここに住んでる」
「雨宮さん。初めまして。響揮さんの許嫁(いいなずけ)の、笹岡(ささおか)琴音と申します。よろしくお願い致します」
私は一瞬、動きが止まってしまった。
響揮に、許嫁がいたなんて。それなのに、さっきセックスをしてしまった。儀式とはいえ、何となく気まずい。
それに今2人共、バスローブ姿。
「響揮には、いつもお世話になってて……。こちらこそ、よろしくお願いします」
こういった挨拶には、慣れていない。
「響揮さん。私の荷物は、もうすぐ届きますので」
「荷物?」
響揮が、怪訝(けげん)な表情になる。
「高校を卒業しました。父が、約束通り、20歳になったら結婚式をと。その前に、同棲した方が解り合えると言われまして」
「はあ!?」
響揮は、寝耳に水といった表情。
「お父様から、お聞きですよね? ですから、ここへ越して参ります」
話は勝手に進んでいて、響揮は知らなかったようだ。
「父は気が早くて。もう、お色直しの着物を考えています」
琴音だけはこの空気に気付かないのか、微笑んでいる。
2人の結婚について、私は何も言える立場ではない。言うつもりもなかった。
私は響揮の助手。セックスはしたがただの儀式で、愛情は存在していない。
また、チャイムの音。
やって来たのは引っ越し業者で、カートにたくさんの荷物を積んでいた。
「この部屋に、運んでくれ……」