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悦楽にて成仏して頂きます
第9章  琴音


 響揮が開けたのは、最初に私が泊まった部屋。
「同室では、ないのですか?」
 何でもないように訊く琴音に、響揮が溜息をつく。こんな彼を見られるのも、たまには面白い。
「それは、もう少し、してからな……」
「はい。解りました」
 素直に返事をする顔にも、微かな微笑み。響揮に従う事に、全く文句はなさそうだ。
 荷物で大きいのは、和ダンスとやはり和風の鏡台。後は衣類や小物などで、服は入れ物からして和服が多いよう。
「片付けは、1人で出来ますから。お2人は、お仕事や修行をなさってください」
 確かに後は、タンスや鏡台に荷物を入れたりするだけ。本人がやった方がいいだろう。
「じゃあ、ちょっと修行に出るよ。飲み物は、冷蔵庫にあるからな。遅くなったら、勝手に風呂入って寝ろよ」
「はい」
 修行と言われ、私は部屋にバッグを取りに行く。
「楓っ」
 響揮の声とノックの音。
「いいワンピースに着替えろ。それに似合うバッグと、ハイヒールもな」
「何で?」
「いいからっ。リビングで待ってるぞ」
 いいワンピースと言われても、そんなに高級な物は持っていない。持ち物の中で一番高かった物に着替え、小さなバッグもいつものバッグへ入れてリビングへ行く。
「じゃあ、行くか」
 玄関でハイヒールを履くと、琴音が見送りに来る。
「行ってらっしゃい。頑張ってくださいね」
「行ってきます……」
 私は答えたが、響揮は無言のまま。
 さっき感じた霊は、響揮が玄関前から動けなくしてくれていた。
 エレベーターに乗ると、響揮が大きな溜息をつく。
「何でいきなり来るかなあー。親父に連絡しねえと……」
 そんな響揮を見て、また笑ってしまった。
「お前も、笑ってる場合じゃねえぞ?」
「何で?」
 エントランスに着き、エレベーターのドアが開く。
「あっ。琥珀は?」
 いつもなら、すぐ鞄へ入ってくるのに。
「琥珀には、さっき念で説明おいた。後は……。着いてから話すよ……」
「ハイヒールじゃ、社への階段、上りにくそう。暗いし」
「社には行かねえよ」
 響揮が足を速めて、ガードレールの区切りまで行く。
「ちょっとぉ。どこ行くの?」
「呑みに行くぞっ」
 そう言うと、響揮はタクシーを止めた。


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