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悦楽にて成仏して頂きます
第9章 琴音
言われた通り、ワンピースにハイヒールで良かったと思う。
入った店は高層ビルの20階。シャンデリアが似合うフロントには、黒服の男が何人もいた。
「神明様。いらっしゃいませ」
出迎えられ、響揮は何かカードを出している。
「エクストラで」
「かしこまりました。ご案内致します」
黒服に案内されたのは、正に豪華な部屋。
窓際に大きなテーブルと椅子はあるが、必要以上に部屋が広い。ここにもシャンデリアがあり、自分の安い一張羅(いっちょうら)が恥ずかしくなるほど。
テーブルには既に、2人分のおしぼりや取り皿にフォークとナイフなどがセットしてある。
「座れよ。何呑む?」
「えーっと……」
メニューを開き、また驚いた。
知っている数少ないカクテルの値段が、一桁違う。この前の所でも高いと思ったが、ここは普通の10倍。
「水割り、呑めるか?」
「うん……」
「じゃあ、いつものボトルセットで」
ドアの前に立っていた黒服に、響揮が振り返って言う。
「かしこまりました」
黒服が出て行っても、落ち着かない。
「響揮。何なの? ここ」
「会員制のバー」
「失礼致します」
ノックとともにドアが開き、運ばれてきたのは大きな木箱。
中には氷が詰まっていて、そこにボトルやらミネラルウォーターが入っている。水割りに使う氷は金属の入れ物の中。
1杯目は黒服が作り、それぞれの前のコースターに置かれた。
「後は、タッチパネルで頼めるから。呼ばなきゃ、誰も来ねえよ」
その言葉にホッとする。
初めての彼氏は高校生だし、大学での元彼と行くのは、いつもチェーン店の居酒屋。それに不満はなく、この店の方が驚いてしまう。
「まずはカンパイ」
「何に?」
「何でもいいよ」
取り敢えずグラスを合わせて、一口呑んだ。
「美味しい……。水割りって、強いイメージだったから。ヘネッ、シー?」
私がボトルのラベルを読むと、響揮が笑い出す。
「ヘネシーだよ。これはまだ安いやつだけど、高いと原価で、百万くらいするのもあるぞ」
笑っていた響揮が、突然溜息をついた。
「どうしよう。琴音……」
「許嫁なんでしょう? 結婚するんじゃないの?」
「バカ。親に勝手に決められたんだ!」