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悦楽にて成仏して頂きます
第9章 琴音
許嫁というのは、本人達に関係なく決められるものだろう。今の時代には、合っていないと思うが。
「知り合いじゃないの?」
「昔から、知ってはいるよ。盆と正月なんかには、マンションにも挨拶来てた。いつも、その日のうちに帰ったけどな」
響揮は水割りを空け、ロックで呑み始める。
「琴音は、親父の囲碁仲間の娘なんだ。俺が生まれた時、娘が生まれたら結婚させようって、言ってたらしい。呑みながら。琴音は言い聞かされて育ったから、信じてんだよ。お嬢様で天然だし」
「琴音ちゃん。美少女じゃない。響揮に、その気はないの?」
「バカか。あったら悩んでねえ!」
また響揮の溜息。
「あっ、何か頼むか。お前は?」
値段は気にしないようにして、メニューからいくつか言った。それを響揮が、自分の物と合わせてタッチパネルで頼む。
少しして届けられた物はみんな彩りもよく、メニューの写真よりも美味しそうだった。
「ここ、よく来るの?」
「んー。たまにな。数ヶ月に1度って感じかな」
自分のグラスに、氷とウイスキーだけを注ぎながら言う。
「誰と?」
「1人だよ。いつもは、もっと下のクラスの部屋だけどな。ここが、最上級のエクストラ。いつもはスタンダードで、この半分くらいの広さ。考え事したい時とかさ」
「じゃあ私は、邪魔じゃないの? 今日の考え事って?」
「琴音についてに決まってんだろ?」
何となく、お互いに料理を食べていた手が止まった。
「お前にも、関係してるから、連れて来たんだろ」
「私に?」
響揮の結婚について、私は関係ない。セックスはしたがあれは儀式で、黙っていれば琴音には解らないはず。
「バカ。琴音は、ずっと家にいるんだぞ。お前のシゴト。どうすんだよ」
「あー。そうだー」
「ヤるだけならよくても、暴走騒ぎになったら……。オレの術については知ってるけど、その時、お前は全裸だぞ。でも、琴音に霊は見えねえ。何してたのか、言えんのか?」
そこまで考えていなかった。それよりも、突然現れた“響揮の許嫁”や“結婚”に、気を取られていたせいだ。
「どうしよう……」
「あいつ、帰りそうにねえしなー」
今度は2人で溜息をついた。