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悦楽にて成仏して頂きます
第9章  琴音



「雨宮さん。おはようございます」
 琴音にニッコリと笑いかけられ、私も何とか少し笑って見せる。
 和服なのは変わりないが、その上に白い割烹着を着ていた。
「楓で、いいよ。堅苦しいから」
「では、楓さんで」
 昨夜は早めに切り上げたお蔭で、アルコールは残っていない。シャワーを浴びようと、部屋を出たところ。
「朝食の準備が出来ましたので、響揮さんにも声をかけてみますね」
 そう言って奥へ行ったから、私はシャワーを浴びに行った。
 昨夜早めに切り上げたのは、答えが出なかったから。琴音には悪いが、彼女が居座るつもりでいる以上どうしようもない。それが、答えなのだろう。
 着替えて出ると、「オハヨ」と言って響揮がシャワーを浴びに行く。
 キッチンへ向かう途中のリビングでは、いつもの場所で琥珀がエサを食べていた。
「琥珀、おはよう」
「琥珀さんというのですか。お利巧な猫さんですね。ご飯と食器のある場所を、きちんと教えてくれました。食べる場所まで」
 引っ越し騒ぎで隠れていた琥珀だったが、空腹には勝てなかったのだろう。琴音が猫嫌いでなくて助かった。
「メシがあんの?」
 シャワーから出てきた響揮が、いつもの席に着く。
「響揮さん。そちらは下座です。上座へどうぞ」
「オレ、いつもここだから」
「そうですか……。では、すぐに用意をしますね」
 用意と言っても、テーブルには既に料理が載っている。
 厚焼き玉子に、しらすおろし。筑前煮が盛られた3つの小鉢。それも、3人分が用意済み。
「どうぞ、響揮さん」
 琴音がお浸しと焼き魚を出し、ご飯とみそ汁とお茶。その後、私にも出してくれた。
「いただきます」
 3人で言ってから食べ始めたが、どれも美味しい。
「これ全部、琴音ちゃんが作ったの?」
「はい。そうですが、お口に、合いませんでしたか?」
 響揮の隣に座った琴音が、心配そうに私達を見る。
「すげえ美味え。和食は久し振りだなあ」
「凄く美味しいよ。品数もこんなに」
「良かったです。ありがとうございます」
 私が作ったのは、オムレツや食パンを焼くだけの一応洋食。こんな立派な和食など、正直作れない。
 年下なのに凄いと考え、何故かもやもやした思いもあった。


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