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悦楽にて成仏して頂きます
第9章 琴音
彼の全裸は、まだはっきりと覚えている。
食パンでも焼こうとキッチンへ行くと、おにぎり3つに沢庵(たくあん)を添えた物が皿に載っている。ラップがしてあって、「楓さんへ」というメモ。
こんな気遣いが出来るなんて、本当にいい子だ。
ありがたくそれを頂いてから、ソファーへ戻った。
時間だけが過ぎていく。
2人が何をしていようと、私に関係ない。
響輝曰(いわ)く、“琴音払い”をしてくれただけ。
セックス除霊の為でも、毎回では大変だろう。響輝にだって、祈祷の仕事がある。
私が出て行くべきだと思いスマホでこの近くの物件を探したが、高すぎて家賃が払えない。
社からあまり遠いと、これからの儀式が大変になる。除霊での貯金はあるが、すぐに底をついてしまうだろう。
溜息をついてから、スマホをテーブルへ置いた。
ソファーに横になると、セックスの疲れで眠くなってくる。目の前の琥珀の寝息にも誘われ、私はいつの間にか眠っていた。
「只今戻りました」
玄関からの声に目を開ける。壁の時計を見ると、19時過ぎ。響揮は、夕方には帰ると言ってたのに。
「琴音、勝手に開けるぞー」
「はい。ありがとうございます」
響揮の両手には、大きな紙袋。それを持って器用に琴音の部屋へ入ると、紙袋を置いてすぐに出てきた。
「後は、自分でやれよ。オレ、少し休むわ」
そう言って、自分の部屋へ行ってしまう。
琴音はキッチンを覘くと、笑顔になる。
「食べてくださったのですね。言って行けばよかったと、後から思いました。楓さんが気付かなかったらどうしようかと」
おにぎりの事だろう。
「ありがとう。美味しかった。ねぇ、あんなにたくさん、何買ってきたの?」
「洋服です。響揮さんが買ってくださって。私、和服以外はよく解らなくて。今時のお店で、ジーンズまで。穿いた事がないので、恥ずかしいのですが……」
どこまで、世間知らずなのだろう。
高校に通っていれば、多分制服だろう。学校から戻るとずっと和服だなんて、私だったら疲れてしまう。
「他には、どこ行ったの?」
「ホテル、で……」
琴音が恥ずかしそうに言った。