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悦楽にて成仏して頂きます
第9章 琴音
さっきまで元気だったのに、急に倒れるなんて。
「琴音ちゃん、どうしたの?」
「オレの部屋に入って倒れた。強過ぎる結界に、普通の人間は耐えられねえ。疲れてるし、朝まで眠るだろう」
私は、「疲れてる」という言葉に反応してしまう。響揮も、少し休むと部屋に戻った。連日私と琴音とすれば、男の方が疲れるだろう。
「コーヒーでも飲むか?」
そう訊いた響揮に頷き、私もリビングへ行く。
どうせ、まだ眠れない。
琥珀はすぐ彼の膝へ乗るが、そのままになっていたエサの皿をシンクに置いた。時間が経ったせいで、すぐには汚れが落ちない。水だけ入れて明日洗おうと、私もソファーへ座った。
今響揮と、どんな会話をすればいいのか解らない。気を遣いすぎてもとは思うが、何を訊いても今日出かけた事に繋がってしまいそうで……。
そのうちにコーヒーが出来上がり、私にも出してくれた。
「ありがとう」
「ああ」
「あのね、響揮。私、ここを出て行こうと思ってるんだ。でも、もう少し待って。今、物件を探してるから」
響揮が、持ち上げたカップを置く。
「何でだよ。お前は、これからが大事な時期なんだぞ。隣に越すとかならいいけど、空いてねえし。今だって、部屋は広いだろ?」
このマンションなんて、冗談ではない。前に住んでいたマンションとは、家賃が違いすぎる。
「だって……」
「何が不満なんだ?」
そう訊かれても、上手く答えられない。
「琴音のせいか?」
首を振ってしまった。
琴音は何も悪くない。婚約者なら、何をしたって当然だ。それを咎めるような事は、言いたくなかった。
「琴音払いなら、手伝うから。せっかく、水の力が目覚めたんだ。でも、今のままじゃ、使い物にならねえ……」
響揮が欲しいのは、私の能力。桜火が求めているものと、変わりはない。
溜息をつく彼に釣られ、私も溜息をついた。