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悦楽にて成仏して頂きます
第10章 水の守護
「そういえば、儀式があるんでしょう?」
「ああ」
「だったら、すぐやろうよ」
桜火が浮遊霊か地縛霊になるまで後3か月を切っているのは、曲げようのない事実。それなら急がなければ。
部屋に戻り、バッグにいつもの道具を詰めた。そこへ当たり前のように琥珀が潜り込む。
装束などだけなら軽いが、琥珀が入ると急に重くなる。
「琥珀、走って行けば? 猫なんだから」
言っても、琥珀は知らん振り。
仕方なく、響揮と一緒にマンションを出た。琴音には、2人とも修行へ行くとリビングにメモを残して。
「ねぇ、響揮。桜火が霊なら、結界で社に近付けないんじゃないの?」
「バカ。あいつの今の能力は凄い。マンションの結界を弱めたの、知ってんだろ?」
響揮が社の鍵を開けながら言う。
生まれた時から、強い特殊能力の持ち主。生きていたら、響揮は黙って社を譲ったかもしれない。
ろうそくに火を着けると、部屋の中が明るくなる。
バッグを開けるとすぐに飛び出した琥珀は、前足を揃え、まだ火の無い焚火の前に座った。
「着替えてくる。お前も着替えろ」
「響揮の装束……。部屋じゃ、ないの?」
注入の儀の時に脱ぎ、シワになっているだろう。
「5着ある。心配するな」
社からは、前よりも強いパワーを感じた。これも、水の能力のせいなのだろうか。
これから何をするか、私には解っていない。
着替え終えて座っていると、響揮も立派な装束で出てくる。一旦焚火に火を着けると、奥から朱色の盃と急須を持って来た。
響揮が呪文を唱えながら、火に盃をかざす。それを私へ差し出した。
「お神酒(みき)を注ぐ。オレが呪文を唱えてる間、ゆっくり呑め」
「はい……」
受け取った盃に、お神酒が注がれる。私は震える手でそれを持ったまま、響揮の呪文を待った。
響揮が焚火に木を足し、呪文を唱え始める。それを聞きながら、私は少しずつお神酒を呑んだ。
呪文が終わると私の方を向き、両手の拳を着いて、頭を下げられた。私も盃を前に置き、三つ指を着いて頭を下げる。
「終わりだ。着替えていいぞ」
そう言うと響揮は、道具を持って奥へ行ってしまった。
思っていたより、簡単すぎる。
これを繰り返せば、水の能力が使えるようになるのだろうか。