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悦楽にて成仏して頂きます
第1章  特殊能力


 話を聞いても、私には何も出来ない。それどころか、霊が全てを思い出すと、恨みを持って暴走する恐れがある。
 セックスが終わったのに、まだ成仏しないのは危険信号。
「ねっ、行こう?」
 無理矢理彼の手を引いて浴室へ行った。
 洗面所と脱衣所を兼ねた先の浴室は、2人入るのがやっと。それでも何とか体を洗い合い、彼に白装束を着せた。
「これって……」
 彼が、洗面所の鏡を見て驚いている。
 セックスをする前、彼は自分が亡くなったのを知らなかった。白装束を着たせいで、全て思い出したのだろう。
「部屋で、待っててね」
 呆然とする彼を洗面所から出し、少し濡れた髪を乾かし始めた。
 彼が全てを思い出せば、怨霊(おんりょう)として犯人に取り憑く。警察に掴まっていなくても、霊なら必ず相手を見つけられるはず。それに、私も取り込まれてしまう可能性がある。
 彼は、「僕は悪くない」と言っていた。霊は嘘をつかない。悪いのは、トラックの方だろう。
 髪を適当に乾かし、後ろで1つにまとめた。
 下着だけで急いで部屋へ戻ると、立ったままの彼から真っ赤なオーラが出ている。
 このままでは危険。
 真っ赤なオーラは、怒り。犯人に訴えられない分、霊は感情をオーラで表す。彼は全て思い出し、今怒っている。
 心残りだったセックスをし、彼の記憶が蘇ってしまった。このままでは、手が付けられなくなるかもしれない。
「僕は悪くないっ!!」
 睨みつけられ、クローゼットから巫女のような衣装を出して手早く着る。白衣(はくえ)という白い上着と赤い袴(はかま)は繋がっていて、マジックテープで留めるだけ。
 これも、祈祷師から渡されたもの。オーラについても、祈祷師から聞いている。そして同じく、翡翠(ひすい)の数珠と短刀を出す。
 普通の短刀ではなく、五角形の鍔(つば)が付いている。鍔とさやには、文字のような綺麗な装飾。
「僕が、死んだ? 僕は悪くないのにっ!!」
 彼は怒り出し、私へと近寄ってくる。このままでは、取り込まれてしまう。
 数珠を左手に持ち、短刀のさやを抜く。
「ここはお前の住む世界ではない! 退散せよ!」
 そう叫んでから、彼の胸に短刀を突き刺した。


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