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悦楽にて成仏して頂きます
第2章 祈祷師
短刀が深く刺さった瞬間、「ギャー!!」というエコーがかかったような叫び声。
耳を塞ぎたくなる。
その直後、彼の体が白く眩い光を放った。
手を離した私は、両腕で目を覆う。それくらい、激しい光。その光はカーテンを突き抜け外へと続いているが、人に見られる心配は無い。特殊能力がなければ見えないから。
最初は短刀で刺す事に戸惑いもあったが、暴走した霊にはこの方法しかない。血も出ず、刺さった感触が少しあるだけ。
それだけが、せめてもの救いだった。
全てを祈祷師から教わっていたお蔭で、もう恐れも少なくなっていた。
「…………楓、さん……。ありが、とう……」
自分が成仏する直前に、霊は全てを悟るらしい。
彼の行き先は解らないが、もう現世を彷徨(さまよ)いはしなくなる。
現世を彷徨っていても、彼には何の得も無い。それどころか、浮遊霊か地縛霊になる時を待つだけ。
そうなってしまえば、もう私の力では救えない。
せっかく授かった、特殊能力。
好きじゃない相手とセックスをするのは複雑でも、それが私に与えられた使命。そう思い、こういったシゴトを続けている。
眩しかった光は段々と薄くなり、そのまま光と共に霊は消えてしまった。残ったのは、床に落ちた短刀だけ。
さっきまでの暴走が嘘のように、静まり返った部屋。
そんな中、全身で息をつく。
こんな風に暴走する霊は、今回で3度目。セックスをした中では少ない方でも、霊が暴走するのには色々な理由がある。
元々の性格が関係する場合もあるが、事故などで即死すると、自分が死んだと解らないまま。気付いた時にはパニックになってしまう。
誰だったそうだろう。自分が死んでいると、予期せぬ事実を知るのだから。
事故はいつどこで、誰に起こるのか解らない。亡くなった彼のように安全運転をしていても、相手が悪い場合もある。
溜息をつきながらその場にしゃがみ込んでいると、暫くしてインターフォンのチャイムが鳴った。