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悦楽にて成仏して頂きます
第11章  琥珀の力


 言われた通り下着の上にバスローブだけでリビングへ行くと、大きめな木の箱がテーブルに載っている。
「これは、裳(も)だ。思ったより、早く手に入った」
 響揮が箱を開けると、着物のようなものが畳んであった。
「まずはこれ」
 渡されたのは短めの襦袢(じゅばん)と着物に、2本の紐。着物は白地で、松の模様が描かれている。
「この後の着方が、解んねえだろ? 最初だけ、教えるから。それは普通に着ろ」
 響揮が後ろを向いてくれた。
 今までの装束は、マジックテープで止めるだけ。これはややこしそうだ。
 バスローブを脱ぎ、襦袢を紐で留める。その上に着物を着て、それも紐で留めた。
「着たよ」
 次に渡されたのは、長すぎる赤い袴。同じ松の模様で、左右に1本ずつ同じ赤の細い布が付いていた。
「その布は、引き腰(ひきこし)。綺麗に左右に来るようにして、腰より少し上に穿け」
「解った……」
 着ている着物は膝まであり、もう見られていても恥ずかしくない。
 響揮に指導を受けながら袴を穿いたが、とにかく裾が長い。まるで、江戸時代のよう。
 柄が松だから、“松の廊下”を思い浮かべてしまった。
 最後に、袴に赤い編糸を結ぶ。
「もっと上に……。よし」
「何なの? これ」
「バカ。裳だって言ったろ? 今日からそれを着て、儀式をやる」
 という事は、桜火との戦いにもこれを着るのだろうか。
 桜火との戦い……。
 頭では解っていたが、それが段々と現実味を帯びてくる。
 数珠やネックレスにピアス。そして、この裳。戦いの為に必要な物は、揃えられたようだ。
「歩きづらいよー」
「蹴るように歩くんだよ。慣れろ」
「ニャー」
 琥珀まで、「そうだ」と言うように鳴く。
「髪は切るなよ。後ろでまとめるから」
「うん……」
「廊下を歩いてみろ」
 言われた通りに歩くが、何歩かですぐつまずきそうになった。端まで行くだけで疲れる。
 戻る時琴音の部屋の前で転びそうになり、ドアに手を着いてしまった。
「はい。何かご用……。楓さん。綺麗な裳ですね……」
「知ってるの?」
「裳は、江戸時代以前からある衣だよ。後は、慣れるしかねえな。社に置こうと思ったけど、普段から着ろよ」
「これを!?」
「慣れるには、それしかねえだろ?」


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