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悦楽にて成仏して頂きます
第12章 神眼の目
奥には、大きな神棚。その下の壁には、やはり星形に読めない文字の護符が貼ってあった。
「普通のヤツなら、即倒れるぞ。この前の琴音みたいに」
やはり私は、普通じゃないのだろうか。
右側の奥には、家庭のような狭いキッチン。何だか、凄く不思議な空間に思えた。
響揮は、ピアスを替えている最中。座布団を2枚持って前の部屋へ戻り、それを敷いてから、客が来ている扉を開けた。
「どうぞ……」
今は裳を着ているから、私も立派な祈祷師に見えるかもしれない。
2人の客は、中年の夫婦のようだ。
「どうぞ、お座りください……」
神妙に言ってから奥へ行こうとすると、装束姿の響揮が出てきた。
「すぐにお仕度致します」
奥へ行って薬缶(やかん)をIHのコンロに載せ、戸棚から茶器や盆を取り出す。今度はお茶を持って行き、2人の前へ丁寧に置いた。
隅に座って聞いていると、半年前に息子が事故で亡くなってから霊障が続いているらしい。婚約までしていたという話だ。
何だか嫌な予感がした。また私のシゴトだろうか。
ネットのサイトに必要だとある通り、男性が息子の写真を差し出す。
響揮は連絡先と名前を紙に書いてもらい、その場で書いたお札(ふだ)を数枚渡した。夫婦はそれに対して、厚い封筒を差し出す。
今日は帰ってもらい、緊張感が解ける。私はホッと溜息をついた。
「50万か。お前の祈祷料は、25な」
急に響揮の口調が戻る。客の前では「私」と言い、丁寧な日本語を使っていたのに。
「何で私が? また、セッ、クス絡み?」
「ああ。婚約者に未練がある。今のお前の力じゃ、まだ、ヤらないとムリっぽいな」
今度は深い溜息。
「今日はもう……。明日にして」
「じゃあ、琥珀のメシが終わった後によろしく。オレは呑みに出るから」
「呑みに行ったら、何かあっても、駆け付けられないじゃない!」
最近は何故か、暴走する霊が多い。
「琥珀がいるだろ。さて。お前の儀式、始めるぞ」
「うん……」
儀式は、前回と同じ内容だけで終わり。
まだ祈祷をするという響揮を残し、私は琥珀が入ったリュックを背負い、裳の箱を持ってマンションへ戻った。