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エメラルドの鎮魂歌
第1章 罪と嘘のプレリュード
やがて瑞葉は三歳になった。
その髪は依然として蜂蜜色に輝く金髪であり、その瞳の色は美しい神秘の湖のようなエメラルドグリーンを湛えたままで、薫子を大いに落胆させた。

「この子の髪と瞳の色は一生そのままだわ」
瑞葉の三歳の誕生日に、薫子が贈ったものは祝いの言葉ではなく冷たい侮蔑の言葉だけであった。

薫子を落胆させたのは瑞葉の髪や瞳の色だけではない。
瑞葉は一歳になっても、二歳になっても…そして三歳の誕生日を迎えても、自分の脚で立つことも歩くことも出来なかったのだ。

瑞葉の主治医は至極困惑していた。
「出来る限りの検査をいたしました。
原因は定かではありませんが、恐らくは瑞葉様のお生まれつきの脚力のお弱さと、幾度も罹られた熱病が影響しているやも知れません。
地道に歩行訓練をなされるよりほかに治療はございませんでしょう」

主治医に匙を投げられ、薫子はわざと大きなため息を吐いて瑞葉から去り、征一郎は黙って薫子に従った。
千賀子はその場に泣き崩れた。
「私のせいですわ。私がちゃんとした身体で瑞葉さんを生んで差し上げられなかったから…!」

八雲は静かに千賀子を抱き起こした。
海よりも蒼く深い瑠璃色の瞳が、千賀子を見つめる。
「奥様のせいではございません。
お歩きになられなくても、お立ちになられなくても、瑞葉様は誰よりもお美しいのです。
それに勝る宝があるでしょうか?」
「…八雲…貴方…」
この美しいがどこか謎めいた男が口にしたやや狂信的とも言える言葉を、千賀子は微かに恐れつつも何よりも心強いものに感じた。

千賀子は八雲の白手袋に包まれた大きな手を握りしめた。
「八雲…お願い…。この子を私に代わって守って…。
私にはこの子を守ってやれる力がないの…。
…それに…もうすぐ…」
その細身の身体に似つかわしくない膨らんだ腹部を、千賀子は白い手で撫ぜた。

…千賀子は第二子を身籠っていたのだ。
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