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エメラルドの鎮魂歌
第5章 青い鳥の唄
「屋敷には慣れたかい?学校は?友達は出来た?」
矢継ぎ早の質問に、藍は思わず吹き出す。
「そんなに色々聞かれても、答えられないよ。
…うん。すごく楽しい。
毎日毎日知らないことをどんどん知ることが出来るのが嬉しいし、絵の描き方とか絵の具の使い方とか…今まで自己流だったからきちんと教えてもらえるのがすごく勉強になる。
美術学校の級友は色んな年齢の人がたくさんいて面白いし、年下の俺に優しくしてくれるよ」
「それは良かった。…君が寂しい思いをしていたら、郁未くん達が心配するからね」
人たらしな笑顔を向けてくるが、藍は少し面白くなかった。

わざとつんとした表情でキャンバスに貌を移す。
硬い声でとげとげと話す。
「…あんた、昨日も帰って来なかったね。
朝帰り?…いや、今もう三時だから昼帰りだね」
「うん?」
「夜会に出席した日は必ず朝帰りだ。
…誰と会っているんだか…。
…恋人?女?…あんたのことだから男か」

青山は一瞬ぽかんとした表情をしていたが、やがて堰を切ったように笑い出した。
「な、何がおかしいんだよ!この不良オヤジ!」
腹が立った藍は青山を睨みつけた。
「…ああ、ごめん。…いや、君が僕にやきもちを焼いてくれているのかと思うと嬉しくてね…」
藍はぎょっとしたようにその切れ長の瞳を見開き、絵筆を放り出した。
「なっ…ふ、ふざけるな!な、何がやきもちだ!バカオヤジ!」
地団駄を踏んで怒り出した藍を、青山は力強い腕で抱きしめた。

「…怒るな…。私は嬉しいんだ…藍…」
ベルベットのような柔らかなバリトンが藍の鼓膜をしっとりと染める。
藍はびくりとまだ華奢な身体を震わせた。
「…私が朝帰りすると心配か?藍…」
…優しいけれど、どこか艶めいた声だ…。





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