この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
エメラルドの鎮魂歌
第8章 エメラルドの鎮魂歌 〜終わりの序曲〜
…数日後の深夜、瑞葉はそっと階下の階段を降りた。

八雲は、ここ軽井沢の屋敷でも居室を階下に構えていた。
…「部屋はたくさんあるのだから、二階を居室にしたらいいのに」
瑞葉がそう勧めても、
「私は使用人ですから。
階上は、ご主人様方の領域でございます」
そう淡々と答えたのだ。
…律儀な男なのだ。
忠誠心が強くストイックで私利私欲は全くない。
…彼の行動はすべては瑞葉の為に行われていたのだ。

ゆっくりと暗い廊下を通り、突き当たり奥の八雲の執務室の扉の前に立つ。
扉の前の僅かな隙間から、窓辺に佇む八雲の長躯の後ろ姿が垣間見られた。

…その姿は、胸が突かれるほどに孤独感に満ちていた。
執事の制服の上着を脱ぎ、白いワイシャツと黒色のベストと黒色のスラックス姿の八雲は、その全身に寂寥感を纏っていた。
いつものあたりを払うような強いオーラと存在感はなりを潜め…美しい凛とした背中には、孤高の哀愁が漂っていた。

…こんな八雲を見たことがない…。
瑞葉は思わず、その姿に目が釘付けになる。

人の気配に気づいたのか、八雲がゆっくりと振り返る。
そこに瑞葉の姿を認め深い瑠璃色の瞳を見開き、固まる。
…何と声をかけて良いのか、思い倦ねている苦しげな表情が見て取れる。

「…入って…いい?」
小さな囁きに頷き、迎え出ると、いつものしなやかな動作で椅子を勧めた。
瑞葉は首を振り、佇んだまま俯いた。

沈黙を破ったのは八雲だった。
「…瑞葉様、私のことをお嫌いになられても、構いません。
けれど、お食事は召し上がってください。
もう、三日も碌にお摂りになっていない…。
…このままでは…」
低く懇願するような言葉が漏れた。

「…お前を…嫌いになれたらいい…って、ずっと思っていた。
…でも…嫌いになれない…ううん…和葉が亡くなったのに…和葉はもう恋人に逢えないのに…なのに僕は…お前を愛している…!
和葉に策略を仕掛けたお前を…誰よりも愛している…!
…僕は…僕は酷い兄だ…!僕は…最低だ!」
涙交じりに切れ切れに言葉を紡ぐ瑞葉を、八雲が背中から強く抱きしめる。
「瑞葉様…!貴方は何も悪くはない…!
悪いのはただ私ひとりです。…貴方を…余りにも愛しすぎてしまった私の…!」
「…八雲…!」
涙に濡れた瑞葉の唇が、その続きの言葉ごと唇を奪う。
八雲の吐息から、静まり返った哀しみが伝わった。




/281ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ