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エメラルドの鎮魂歌
第9章 エメラルドの鎮魂歌 〜秘密〜
青山の車が瑞葉を乗せて走り去るのを、窓辺から見送る。
瑞葉は、青山の胸に貌を埋めたまま振り返ろうともしなかった。
車は白い雪道に二本の車輪の軌跡を残しながら、あっと言う間に見えなくなった。

「…さっきのお話は…本当なの…?
…貴方…瑞葉さんを…」
怯えたように声を震わせる千賀子の方をゆっくりと向き直る。
「…はい。瑞葉様を抱きました。何度も…」
…何度も犯した。何度も抱いた。
そして…狂おしく愛した…。
愛し尽くせぬほどに、愛した…。

「なぜ⁈瑞葉さんが自分の子どもだと気付いていたんでしょう⁈
…それなのになぜ⁈
…私への…復讐…⁈」
「復讐…?」
鸚鵡返しに呟く。
「私が貴方を利用したから…。貴方を利用して…瑞葉さんを身籠もったから…。
だから貴方は瑞葉さんを騙して…めちゃくちゃにしようとしたのではないの?」
「それは違います!」
声を荒げて否定する。
その迫力に、千賀子はびくりと肩を震わせる。

「…私は…瑞葉様が生まれた瞬間に、心を奪われてしまったのです。
…私の子どもだろうと何だろうと関係なかった…。
ただ、あのお方の存在に…心を奪われてしまったのです…。
愛おしくて愛おしくて…堪らなかった…。
年を追うごとにお美しく気高く成長され…眩しいほどでした…。
…あの美しい方を…身も心も愛さずにはいられなかった…。
例えそれが禁断の愛だとしても…。
あの方は、私のすべてでした…」
「…八雲…」
千賀子が涙ながらに口を開く。
「…私に…貴方を責める資格はないわ。
…私は瑞葉さんをお義母様から守って差し上げられなかった…私は…瑞葉さんより我が身が可愛かった…。
逃げてばかりで、瑞葉さんの為に闘うことができなかった…しようともしなかった…。
酷い母親です。
…だから…貴方を責めることなんてできない…!
…けれど…瑞葉さんは…これからどうしたらいいの?
あの子にとって貴方は命に等しい存在だった筈よ…」

「…奥様、もう…すべては終わったのです。
…瑞葉様は私を決してお許しにならないでしょう…」
絶望感に満ちた無機質な声が響いて、消えた。


…「穢らわしい!お前は…悪魔だ!」
瑞葉の悲痛な叫び声が、胸を貫く。
憎しみの炎が燃え盛るエメラルドの瞳…。
もはや、愛の欠片も見出せはしなかった。

…すべては…終わったのだ…。

八雲はゆっくりと瞼を閉じた。


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