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エメラルドの鎮魂歌
第11章 エメラルドの鎮魂歌 〜孤独の魂〜
八雲はまるで独り舞台の役者のように、語り続けた。

「…瑞葉様と肉体関係を結んでも、不思議に罪悪感はありませんでした。
…自分の子どもだと実感することはありませんでしたから…。
…そのようなことを想像する余地がないほどに、瑞葉様はお美しく気高く優美で…まるで天使のようでいらした。
私は…ただひたすらに瑞葉様に耽溺しておりました。
…身も心も…のめり込み…溺れた…。
…ここ軽井沢で…二人きりの閉じられた世界で生きてゆきたかったのです…。
親子の禁忌もない…ほかに何も存在しない…ただ瑞葉様と私だけが存在する…天国のような世界で…。
二人だけの世界を完結させるつもりでした…。
…瑞葉様には…決して知らせるつもりはなかったのです…。
死ぬまで…。この秘密は…私ひとりの胸に秘めて…」

青山がため息を吐きながら口を開いた。
「…そんなこと…できるはずがない。
…天国など、どこにもないのだよ。
我々は、現実世界を生きているのだ…」

八雲は、静かに微笑んだ。
…それは、彼岸の向こう側のような微笑みであった。
「…ええ、その通りです。ですから、私はここを去ります。
…瑞葉様の前から、姿を消します…未来永劫に…。
私を忘れ去っていただくには、それしか方法はございません」

青山は異論を唱えなかった。
八雲を見つめ、親しい兄のように尋ねる。
「…最後に、瑞葉くんに会わなくて良いのか?」

八雲の深い瑠璃色の瞳が、微かに揺れた。
…しかし、直ぐに首を振る。
「…私に…そんな資格はありません。
…それに…瑞葉様は私を憎んでおられるでしょう」


…「穢らわしい!悪魔!…お前は…悪魔だ!」
見たこともない激しい憎悪と悲憤の表情…。
…もう二度と、自分を愛の眼差しで見つめてくれることはないだろう…。


八雲は、青山に向き直る。
美しい凛とした一礼を、決別のように与える。
「…瑞葉様を、どうぞよろしくお願いいたします。
…あの方は…今でも私のすべてなのです…」
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