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エメラルドの鎮魂歌
第11章 エメラルドの鎮魂歌 〜孤独の魂〜
与えられた私室で、瑞葉はぼんやりと本を読んでいた。
先ほど、藍が来て陽気に話しかけてきた。
「瑞葉の旅券が出来たそうだよ。
俺が取りに行ってくるね」
そう言って、藍は頬に軽いキスをした。

…あの夜から、藍は決して瑞葉の身体を需めてこようとはしない。
「…瑞葉…。愛してるよ。…いつかでいい。
俺を愛して…」
…待っているよ…。
そう囁きひたすら優しく、抱き締め…寄り添ってくれるのだ。

…あの甘く淫らな淫蕩の夜…。
藍と青山に抱かれた…。
二人に身も心も翻弄され、快楽に溺れた…。
性の営みに罪悪感を持っていた瑞葉の心を解放するように、二人は瑞葉に甘く痺れるような快感しか与えなかった。

…目覚めると、瑞葉の身体は綺麗に清められ、寝台に寝かされていた。
激しい性交の痕跡は一切残されていなかった。

瑞葉は、二人の深く温かい愛情をしみじみと噛み締めた。

…けれど…。

二人に抱かれ…甘やかされるような快楽を与えられても、思い出すのは八雲のことだった。

…八雲は…どうしているのだろう…。

…軽井沢のあの屋敷に…一人でいるのだろうか…。

…一人で…。

美しい…誰よりも美しく孤高の男の姿が脳裏に浮かんだ。
…誰よりも愛した…唯一の男だった…。

途端に、胸が張り裂けるように痛む。
そして、そんな自分を振り払うかのように激しく打ち消す。

…考えてはいけない。
あの男は、悪魔なのだから…。
自分を騙し、復讐しようとしていたのだ。
篠宮家の人々に…。
…そうに決まっているのだ…。

深いため息を吐き、両手に貌を埋める。
…部屋の扉が静かにノックされた。

瑞葉はゆっくりと、貌を上げた…。
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