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エメラルドの鎮魂歌
第12章 エメラルドの鎮魂歌 〜瑠璃色に睡る〜
「…瑞葉様…。あれをご覧になっていたのですね…」
茫然とした口調で瑞葉を見下ろす。
「…八雲が拒んでくれて、嬉しかった」
「当たり前ではありませんか!
…あの薬を…今、私にお使いに…?」
エメラルドの瞳が寂しげに、瞬いた。
「…だって、八雲が僕を置いていこうとしているから…。
ずっと一緒だって言ったのに…酷いよ…」
…頼りなげな子どものように稚い表情が露わになる。
「⁈」
「そうでしょう?僕を置いて…一人で…何処かで死のうとしていたでしょう?」
「瑞葉様!」
八雲の氷の彫像のような美貌が苦しげに歪む。
…が、次の瞬間、はっとしたように瑞葉の華奢な腕を強く掴む。
自分の死よりも…比べようもなく恐ろしいことを確かめる。
「瑞葉様…。あの薬は、私にだけ使われたのですよね⁈
まさか…貴方はお飲みになられてはいないですよね⁈」

瑞葉はしっとりと潤んだエメラルドの眼差しで八雲を見上げた。
そして、この上もなく幸せそうに答えた。
「…飲んだよ。八雲と同じ量だ…」
「何ということを!」
低く呻き、瑞葉を掻き抱く。
…何よりも愛おしい伽羅の薫りが強く漂う。
「…何という馬鹿なことを…!私は…貴方には青山様と藍様と共に、フランスで新しい人生を生きていただきたかったのですよ…!」

その腕の中で瑞葉は激しく首を振る。
「嫌だ!僕は八雲が居なくては、生きてはいけないのに!新しい人生なんていらない!」
「瑞葉様…」
瑞葉が激しく胸を掴み、感情を露わにする。
「嘘つき!もう二度と離さないと言った癖に!八雲の嘘つき!嘘つき!」
八雲の胸を拳で叩き、嗚咽を漏らす瑞葉の貌を引き寄せる。
落ち着かせるように優しく声を掛ける。
「…瑞葉様…」
「…愛している…もう離さないで…死ぬまで一緒にいて…」
涙に濡れて煌めくエメラルドの瞳を見つめ、狂おしく唇を奪う。
柔らかな薄紅色の唇を割り開き、愛おしげに舌を絡める。
…甘く芳醇なワインの香りと味…。
…死へと誘う魔の味だ。
…けれど…。
八雲は、微笑む。
「…瑞葉様…。私と死んでいただけるのですか…?」
…望むべくもないと諦めていた…見果てぬ夢が、現実となるのだ。
八雲はその幸福に、高揚の笑みを浮かべた。
何よりも愛おしいエメラルドの瞳が、同じ幸福感に輝いて真っ直ぐに頷いた。
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