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エメラルドの鎮魂歌
第1章 罪と嘘のプレリュード
赤ん坊は、瑞葉と名付けられた。
本来なら篠宮伯爵家の待望の跡継ぎである。
親戚や親しい友人家族達を招き、誕生の宴を華やかに開くところだ。
しかし、薫子の独断により瑞葉の誕生はほぼ伏せられ、育児室も人が殆ど近寄らない西翼の奥の部屋に変更された。

それでも乳母とナニーがつけられたが、薫子の余りの嫌悪ぶりに、彼女たちは皆、瑞葉に対して腫れ物に触れるような扱いをし始めた。


千賀子は、瑞葉に近づくことを禁じられた。
「あの子のことは一刻も早くお忘れなさい。
貴女に課せられた責務は速やかに健やかな跡継ぎを生むことです。
…異端の子どものことなどに、気を取られてはなりません」
薫子の血も涙もない言葉に、千賀子は抗うこともできずにただ涙に暮れた。
千賀子には、姑に逆らうだけの勇気も気力もなかった。
たまさか薫子の目を盗み、育児室に忍び込み瑞葉を抱きながら泣きじゃくることしかできない弱い女であったのだ。

瑞葉生まれつき身体が弱く、何度も高熱を出しては死線を彷徨った。
乳母とナニーはおろおろするだけで至極頼りなかった。
その都度医師を呼び献身的に看病し、瑞葉を救ったのは八雲であった。

八雲は、征一郎の従者であった。
本来は瑞葉の世話を焼く役割ではない。
執事は、余りに瑞葉の世話に情熱を傾ける八雲に苦言を呈した。
「お前のお役目は旦那様のお世話をすることだ。
…しかも瑞葉様は大奥様のお覚えはめでたくはない。
余り目立つようなことをしてはならない。
お前の立場が不利になる」

八雲は首を縦には振らなかった。
「従者のお役目を粗末にはいたしません。
旦那様にもご迷惑を掛けるようなことは決していたしません。
どうか瑞葉様のお世話を続けさせてください」






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