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エメラルドの鎮魂歌
第4章 美しき森の虜囚
玄関ホールは天井と二階の踊り場の壁に嵌め込まれたステンドグラスが初夏の陽光に反射し、まるで欧州の教会のような荘厳さに包まれていた。

壁に飾られた歴代の当主の肖像画は、事実上廃嫡となった瑞葉には皮肉な産物のような気がするが、この館には良く調和していた。
調度品も年代の古いものではあるが、全て好事家の垂涎の的になりそうな稀少な品ばかりである。

職業柄、つい立ち止まり見渡していると、先導していた八雲が静かに振り返った。

「お眼鏡に叶うものはございますか?」
その形の良い唇には薄っすらと微笑が刷かれている。
…初回に会った時と大違いだ。
青山は眼を細めて、八雲を見つめた。

「君はこちらに来て少し変わったのかな?
別人のように優し気だ」
青山の愛蔵品のひとつに加えたいほどに美しい容姿の執事は、表情ひとつ変えずに答えた。
「…さあ…どうでしょうか。
ただ、こちらに来てからは瑞葉様のお世話だけすれば良いので…夢のように幸せです」

青山は大仰に両手を広げてみせた。
「これはこれは…いきなりの惚気をご馳走様。
君がそんな風に感情を吐露するとは意外だったよ。
…それにしても、ここはまるで隠れ里のように静かだな。
瑞葉くんは若くして庵を結んでいるかのようだ。
…使用人は?」
辺りを見渡して尋ねる青山に、さもないように答える。
「通いの料理婦とメイドと庭師が一人ずつおります。
…本日は青山様がお見えになるので、全員に休みを取らせましたので不在です」

青山が眉を顰め、わざと口を尖らせる。
「何だね?私をまるで厄介者みたいに…」

八雲の深い瑠璃色の瞳が、ひたりと青山を見据えた。
「青山様に折り入ってご相談があるのです。
…瑞葉様にも内密なお話です」

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