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エメラルドの鎮魂歌
第4章 美しき森の虜囚
青山が通された客間は、陽当たりが良くたっぷりとした広さがあった。
また、高価なヴィクトリア朝の家具やシノワズリの調度品に囲まれた素晴らしく趣味の良い部屋でもあった。
壁に掛けられた絵画はグスタフ・クリムトだ。

「とても良い住まいじゃないか。
…さすがの薫子様も、お孫さんを荒屋に住まわせるのには心が痛まれたのではないか?」
青山は地獄耳だ。
瑞葉が事実上廃嫡にされ、久我山の屋敷を追われたのを周知していた。
「いいえ。大奥様は、外聞を気にされただけです」
表情を毛筋ほどにも変えずに八雲は答える。

ジノリの茶器を美しい所作で手際よく並べ、流れるような動作で薫り高いダージリンを淹れる。

「軽井沢は、夏には上流階級の方々で賑やかになります。
お茶会や夜会も頻繁に開かれます。
その方々に、病弱な孫を見窄らしい家に住まわせていると噂されるのは薫子様のプライドが許さないのです。
…愛情ではなく、体裁です」
「君は辛口だな。まあ、確かにあのお方からは親愛の情は感じにくいがね…。
…で?麗しのラプンツェルの君はどちらだ?
まさか私に会わさぬよう隠しているのではないか?」
きょろきょろと見渡す青山に小さな微笑みを浮かべ、窓の外を視線で指し示す。

…視線の先には、白いリネンの裾の長いドレスを着た瑞葉が木陰で本を読んでいた。
蜂蜜色の長く美しい金髪が太陽の光に透け、煌めき…それは室内から見ても眩しいほどに輝いていた。
木漏れ日の中、静かに読書をする瑞葉の姿は一枚の美しい名画のようだ。

「…お庭で外気浴をされています。
まもなくお迎えに参ります。
…こちらに移って何より良かったのは、瑞葉様をお外にお連れできることです。
…久我山のお屋敷では、中庭に短時間居ることもままならなかったので…」

しばらく熱心に瑞葉の姿を見つめ、青山はゆっくりと口を開いた。
「歩けるのに、歩けぬ振りをするのは苦労が多かっただろうな。
あちらは使用人も多かった。部屋で密かに歩くのが精々だったろう。
…君がここに通いの使用人しか置かないのは、瑞葉くんを自由に歩かせる為か?
全く、素晴らしい忠誠心…いや、恋の熱情だな。
…しかし、その熱情は彼の弟君の運命をも変えてしまったようだ」

茶器を置く八雲の手が止まった。
見上げる瑠璃色の瞳を、青山の強い瞳がひたりと留める。

「何が仰りたいのですか?青山様」




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