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約束 ~禁断の恋人~
第1章  日常


 学生時代から、ライバルと呼べる人間はいた。ただ競い合うだけじゃなく、刺激し合ってお互いに成長する。
 知っているのは、相手の顔と名前と能力だけ。極端に言えば、相手が人間じゃなくても構わなかった。
 自分の分も持って来たという海と仕方なく一緒に夜食を摂った日を境に、彼はどんどん僕の世界へ入って来た。
 父親に頼まれたわけじゃないのに、夜食を持って研究所を訪れたり。外来担当の日の院内で会うと、大袈裟に手を振って近寄ってきたり。
 誰かにそんな風にされるのは、初めてだった。そんな海を疎ましく思わなかった自分が不思議だった。
 彼の好きなバイクの話で、僕を楽しませてしまう。体に良くないと言ったら、煙草もあっさりとやめてしまった。
 それまでの僕はライバル全員に勝ち続け、今の能力を手に入れたと思っていた。
 実力と努力で戦ってきた自分に、間違いは無いと思い込んでいただけ。
 そんな僕がただ一人敗北を認めた人間。それが海だ。
 彼が医学に長けているわけじゃない。一般的な学問に関してだけ言えば、並みの人間。でもそれを、個性の一つでしかないと思えるようになった。
 高い学力を身に付けることしか考えていなかった僕にとって、海の存在は衝撃とも言える。
 人間的な魅力の高さでは、彼の足下にも及ばない。
 裕福じゃなかった専門学校時代に、バイトをして大型バイクの免許を取ったこと。高校時代は一時グレそうになったが、調理師を目指して頑張ったことも。
 それまで周りにいなかったタイプで、興味をそそられた。
 もっと話を聞きたい。
 もっと一緒にいたい。
 もっと近くに行きたいと思った。
 今思えば、その時点で僕は海を愛し始めていたのだろう。自分と同じ性を持つ彼を。
 海からの告白を受けたのは、僕の25歳の誕生日。その時僕は、子供の頃以来の涙を流した。
 子供の頃は怪我をした痛みからの悲しい涙だったが、その時は違う。嬉しくても涙が出るのを、初めて実感した。



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