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約束 ~禁断の恋人~
第1章 日常
海は、僕に心からの笑顔を教えてくれた人。彼に会わなければ、一生誰にも心からの笑顔を向けることは無かったかもしれない。
僕は元々、同性愛者じゃなかった。同性に興味を持つことも無かったし、異性にも関心が無い。
恋愛以前。
人間に。
他人に興味が無かった。
子供の頃から、深く付き合った友達はいない。いたのは、議論する仲間だけ。
学生時代は勉強に打ち込み、Dr.になってからは研究ばかり。
でも海に出逢って、僕の人生は変わった。
研究への情熱は衰えていない。それでも彼が傍にいてくれるから、自分を委ねられる場所があるから前以上に頑張れる。
今の僕は、海がいるから生きて行けるんだ。
一体目の“Z”の移植間近に深夜一人で研究所へ残っていた時、医院長の父親から頼まれた夜食を持って来たと言う青年を中へ入れた。
病院関係者全員が持つ、写真付きのIDカードをスキャナーで確認してから。
普通研究所へ入るには、防犯システムのチェックを受ける。
小部屋に入れば、危険物を持っていないか全身をスキャンされ、同時にIDと指紋と角膜認証が行われる。
だからIDカードが他人へ渡っても、研究所へ入れない。海は研究所への登録が無いから、僕が中へ入れた。
入って来た海に「初めまして」と挨拶すると、彼は大声で笑い出したのを覚えている。
『ヒドイなあ。何度も食事を届けてるのに。先月の定例会議の時にも』
屈託なく笑う海が、不思議だった。顔を覚えていなくて怒るならともかく、どうして明るく笑えるのかと。
その後彼が言ったのは、『何でいっつも、つまんなそうな顔してんの? 綺麗な顔してるのに』だった。
訊けば、海は院内で何度か僕を見かけていたそうだ。
どう答えたらいいか分からないでいると、彼は夜食の包みを開けながら自己紹介を始めた。
名前、年齢、二年前に両親を事故で亡くしたこと。それに趣味や特技など。
その時点で、そんな話には全く興味が無かった。他人のプライベートになど、興味は無い。