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約束 ~禁断の恋人~
第3章 倒錯
まだ全裸のままの彼が立ち上がって、Dr.小早川に頷く。
「はい。カイです」
カイは、僕以外の人物を初めて見た。
「俺は、小早川だ。Dr.小早川」
「初めまして。Dr.小早川」
頭を下げるカイに、また溜息が聞こえる。
「裸で、何をしてたんだ?」
「セックスをしてました」
カイの正直な言葉を聞き、Dr.小早川は僕の所へ来た。
“Z”は嘘をつかない。感情が無いから。そして今の状況が、彼に理解出来るはずもなかった。
「桐島。何を考えてるんだ?」
「僕達は、恋人同士なんです! 愛し合ってるんです! 男同士だって、本当に愛し合ってます!」
「そんな問題じゃないだろう?」
その言葉に、体が強張る。
Dr.小早川の肩越しに、カイもじっとこっちを見ていた。
「移植したって、海くんにはならないだろう?」
そんなことは、最初から分かっている。でもDr.小早川に言われ、改めて痛感した。
「桐島。お前は、海くんの容姿だけが好きだったのか? 同じ容姿の“Z”とセックス出来れば、それでいいのか?」
首を振る。
海に抱かれるのが好きだった。
でもそれは海も僕を愛してくれる結果で、快感が欲しいわけじゃない。
海の愛情が欲しかったから。
僕を抱いている時だけは、以前と同じ海になる。
「桐島……。死んだ人間は、二度と生き返らない。どんなにつらくても……。お前もDr.なら、それは分かってるよな……」
分かっている。
全部分かっていた。
カイは海じゃない。
僕の愛した海は、今ここにいるカイじゃない……。
「取り敢えず、今日は帰る。俺にも少し、考える時間をくれ……」
無言で頷いた。
今の僕にも、考える時間が必要なのかもしれない。
「お前は、看病疲れで休む事にしておくから……」
通り過ぎる時、Dr.小早川に肩を叩かれた。
玄関ドアが閉じる音に、強く目を瞑る。
「トモ、どうした?」
傍に来たカイが、顔を覗き込む。
海と同じ顔。
海と同じ体躯。
海と同じ声。
それでも彼は、海じゃない。
カイと二人切りの生活で、僕は狂ってしまったのだろう。