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約束 ~禁断の恋人~
第3章  倒錯


 僕が抱かれていたのは海じゃない。全て同じでも、人格の違う、別のカイなんだ……。
「カイ……。服、着て……」
 頷いて、カイは自分の部屋へ戻って行く。
 Dr.小早川のお蔭で、目が、覚めた……。
 これで良かったんだ。もう、カイと呼ぶのもやめた方がいい。
 着替えを済ませたカイが目の前に来て、僕をじっとみつめる。
 やはり違う。海の瞳はもっと生き生きとしていて、悪戯っ子ぽく見える時もあった。
 目の前のカイは、指示を待つ幼児のようにしているだけ。
「トモ、もう寝る?」
 何事もなかったように見るカイを見つめ返したが、俯く事で目を逸らした。
 僕とDr.小早川が話していた内容は、カイには理解出来ないだろう。言葉の意味は分かっても、神髄を理解するには感情が必要になる。
 きちんとしなければ入れない。
 僕はずっと目を逸らしていた。
 カイが、海じゃないことから。
 彼を誤魔化し自分も誤魔化し、夢を見るように。
 空想を現実にするのは、簡単だった。
 “Z”は、Dr.に絶対服従。
 それをいいことに、僕はセックスを強いていた。
 お互いが求め合っていると思い込んで。
「話があるんだ。座って……」
 彼はすぐに、僕の向かいへ座った。
「本当は……。君は、カイじゃない。君に話しても、理解出来ないと思うけど、君は、僕の恋人の、代わりだった……」
 どうしてか鼓動が速まる。
「君が事故になんか、遭わなければ……。こんなことに、ならなかった、のに……」
 責任転嫁なのは分かっていた。でも、自分の感情をどう抑えたらいいか分からない。
 時を戻せれば。
 僕が代わりになっても、海を逝かせたりしなかったのに。
「カイじゃないなら、オレは何なの?」
 静かな口調に、自分の鼓動が聞こえるようだった。
「フィーア……。君は、“Z”のフィーアなんだ……」
 それはドイツ語の4。“Z”は既に3体出来上がっているから、彼は4番目。
「フィーアが、新しい名前?」
 僕を見つめるカイを、視界の隅で感じながら頷いた。
「君と、もう、セックスは、しない……」



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