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約束 ~禁断の恋人~
第4章 現実

「海くん。君は、自分のことを朋也から聞いているのか?」
「トモヤ……?」
僕はフィーアに、トモとしか教えていない。
「お父さん。彼は、海じゃないよ。名前はフィーア。ただの、研究材料だよ」
出来るだけ冷静に言った。
「本当にそう思ってるのか? 割り切れるのか?」
「僕は、研究者でDr.だよ。海は、意識を取り戻す見込みが無かった。だからフィーアとして、研究材料にしたんだ」
溜息を押し殺し、カップに口をつける。
「それなら、研究所に置いた方がいいんじゃないのか? 勝手に移植したのは、私の指示だったと言えばいい」
カイをフィーアと呼び始めた時、それは僕も考えた。研究所にいる方が、フィーアのためなのかもしれないと。
きちんとした体調管理もしてもらえる。“Z”としてのメンテナンスも。
「でもみんな、海の顔を知ってるから……」
整形は医療チームの仕事だが、海は毎月の全体会議の時に昼食を届けていた。明るい性格からどのメンバーともよく話していて、海の顔を覚えている者も多い。
「別の病院の私の知人に、秘密裏に整形してもらえばいい」
フィーアにも僕にも、きっとその方がいいのだろう。でも心のどかで、それを拒否する自分がいる。
「海の戸籍だけは、そのままにして欲しいんだ。この先の学習によって、職場へ復帰出来れば必要になるし」
心の中とは裏腹に、研究者としての表情は崩さないようにしていた。
動揺している自分が不思議だ。フィーアがここからいなくなるのが嫌だと、初めて実感した。
「分かった。お前が本気なら、もう暫く様子を見ようか……」
「ありがとう」
父親に言ってから、フィーアを見る。
いつものように、無表情で僕と父親の会話を聞いていた。
フィーアに、会話の核心は理解出来ないだろう。内容は分かったとしても、感情が伴わない上辺だけの理解に過ぎない。
「フィーア。自分の部屋で、昨日の学習の続きをして」
「ん。分かった」

