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約束 ~禁断の恋人~
第1章 日常
豆腐とワカメの味噌汁に、ふっくらと焼けた厚焼き玉子。何種類か手作りの浅漬けが小鉢に盛ってあり、塩焼きだろう何かの魚が、香ばしい香りを漂わせている。
「カマスだよ」
白米をよそった茶碗を差し出しながら、焼き魚を見ている僕に海が言う。
逞しい体躯や一見遊び人風の見かけからは想像しづらいが、海は調理師免許を持っている。それも取得が難しいと言われる、“自然食品管理者”の資格。
それは名前通り、養殖やバイオ食品以外に天然の食品も扱える。
天然の食品には寄生虫や細菌が存在しているから、それらに対しての細かな知識が必要らしい。
合成食品やバイオ食品が当たり前の現代では、包丁の無い家庭も多い。一人暮らしの頃の僕の食事も、パッケージを開ければいいだけのバイオ食品。
だから海と住み始めてから、初めて天然の鮭丸ごとを見て驚いた。
口に縄が通った新巻鮭(あらまきじゃけ)。それが食品に見えないのは、僕らの世代なら当たり前。
「ちゃんと喰えよ。トモは目離すと、何日も喰わないで研究してそうだから」
「何日も食べなかったら、倒れちゃうよ」
笑ってはみせたが、確かに一日半コーヒーだけで過ごしてしまった時もある。力が入らなくておかしいと思ったが、海に指摘されるまで気付かなかった。
「あんま痩せちゃうと、抱くの可哀そうでさ……」
「な、何言って……」
持っていた箸を落としそうになる。
そんな僕を笑いながら、海はリビングにあるバイクのヘルメットを持った。
「海は食べないの?」
「ん。早番だから時間無いし。向こうでなんか摘まむ。昼は弁当作ってくから、外来の後一緒に喰おうぜ」
頷いてから、海を見送りに玄関へ行く。
海の勤務先は、僕と同じ病院の調理部。
特別な資格を持つ彼は重宝されていて、明るい性格からも職場の人気者らしい。他の調理師から聞いたことがある。