この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
約束 ~禁断の恋人~
第1章 日常
「じゃ、行ってきます」
玄関でキスを交わし僕の髪を撫でると、海はいつも通りに出て行った。
何とか半分ほど食べてから食器を下げ、自室のパソコンへ向かう。出勤前に、”Z”の最新データを見ておきたい。
研究所のメインコンピューターとデータカードで繋げたが、何も更新されたデータは無かった。
今日の午前中は外来があるから、研究所へ行くのは海と食事をした午後から。今度は外来のコンピューターへ繋ぎ、予約患者のカルテも調べておいた。
元々特に難しい患者は受け持っていないが、急変する場合もある。
電子音が聞こえ、コンピューター経由の通話スイッチを押す。登録してあるから、父親からだとは分かった。
《朋也っ!!》
いきなりの父親の大声に、一度少し通話口から体を離す。
「どうしたの? 急患? もうすぐ出ようと思って……」
《海くんが、事故に遭った。今、集中治療室にいる……》
父親はまだ何か話していたが、内容は理解出来ていない。
“事故”と“集中治療室”という言葉だけが頭を巡り、急いでマンションを出た。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
集中治療室のドアを入ると、医療機器が出す様々な電子音が耳を刺激する。
広めの室内は壁も天井も全てが白で統一され、妙に寒々とした印象を受けた。
こんな病室にも、慣れているはずなのに。
患者の容態が悪い時は数人のDr.やナースがベッドを取り囲んでいるはずだが、今室内にいるのは患者と僕と父親だけ。
「朋也……」
父親の声は聞こえていた。
でもそれはずっと遠くからのようで、全く現実味が感じられない。
僕と変わらない身長と、中年を過ぎた今も昔と変わらない細身。その体を白衣に包んだ父親が、ゆっくりと近付いて来た。
僕は父親に肩を抱かれたまま、呆然とその場に立ち尽くす。
インターン時代から、何度も目にした光景。
ベッドに横たわる患者を見つめる家族に、最悪の容態を告げるDr.。
でもいつもとは逆の立場に置かれ、言葉が出ず動けなかった。