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約束 ~禁断の恋人~
第5章 変化
一緒に行くために、自分の白衣を持ち帰った。敷地内を歩くには、白衣の方が自然だから。
「堀内さん。佐倉さん。美咲。賢……」
「そう。そのみんながいる所だよ。まずは、何もしなくていいから。見てるだけで」
それについて特に感想も無いように、フィーアは食事を続ける。
調理部とは言え、病院の敷地内にフィーアを連れ込むのに、不安もあった。それにフィーアは、このマンションから出たことがない。
自分の事故現場を見て、フラッシュバックを起こさないかも心配だ。
僕は精神科医じゃないし、その記憶があるのか定かではないが。
でもフィーアは、四階のメンバーの名前を口にした。
試してみたい。
研究としてではなく、フィーアの今の能力を。
それは、僕の個人的な希望でもあった。
フィーアは、色々な海の記憶を思い出している。それが進めば、僕の海に戻るんじゃないかという希望的観測。
いくら海の記憶を取り戻しても、フィーアは海じゃない。それは分かっていても、行動せずにはいられなかった。
「フィーア。調理部に行く時だけは、君は海だよ」
「カイ……」
以前僕がそう呼んでいたのも、覚えているはず。消去しない限り、記憶は消えない。消去するには、研究所での特別な処置が必要となる。
今はまだ、フィーアを研究所へ連れて行かれない。
父親に言われた通り秘密裏に整形をしなければ、みんな海の顔を知っている。表向きは、父親である医院長の養子だということも。
フィーアという名前さえ出さなければ、調理部にいるだけなら問題はないだろう。
四階の仲間は勿論、一応各階を周り、海のことは内密にして欲しいと頼んできた。
「明日は、5時半にここを出るから。それに間に合うように、朝食を用意して?」
「分かった」
僕は食べなくても構わないが、フィーアは精神的にも疲れるだろう。
フィーアとの、初めての外出。
不安と希望を抱きながらも、通常の学習の後、その日は眠りについた。