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約束 ~禁断の恋人~
第5章 変化
そんな様子を、僕は座ったまま見ていた。
「海のお蔭で、前みたいに楽だったよー」
美咲がフィーアに笑いかける。
我に返ったようなフィーアが、僕の傍へ来た。
「Dr.トモ……。オレ……」
戸惑ったような言葉。
大変そうな佐倉を見て反射的に体が動いたらしいが、全てが済むと初めて外へ出たフィーアに戻った。
「海。凄かったよ」
それは本当に感じたこと。
ここでなら、フィーアは海としてやっていかれるだろう。
「海くん。助かったよ。一人いないと、今まで大変だったから」
堀内の言葉に、全員が集まってフィーアに話しかけている。
「いつも来てくれたらいいのにねえ。前みたいに」
佐倉が言うと、全員が頷いていた。
一人では出勤出来ないかもしれないが、僕が送ればいい。
でも、フィーアが僕から離れて行くように感じた。
僕の海はもういないと、割り切ったはずなのに。
フィーアにとっても、職場があるのはいいことのはず。彼の技術があれば、一人でも生きて行かれる。
それを淋しいと感じるのは、僕のわがままでしかない。
新しい命を持った彼には、新しい彼の人生がある。
例えるなら、僕は彼の生みの親。悪いことをしない限り、親に子供を縛り付ける権利は無い。僕がDr.になったのだって、僕の意思からだ。父親に強制されたわけじゃない。
「Dr.トモ……」
フィーアが、不安そうに見えた。
名前や仕事は何故か覚えていても、いきなり複数の人と接するのに無理があったのかもしれない。
「フィー……。海はまだ本調子ではないので。すみませんが、今日はこれで失礼させてください」
立ち上がって、頭を下げた。
「また来てね」
「いつでも待ってるよ」
それぞれの言葉を受けてから、僕達は調理部を後にした。
「フィーア、どうだった?」
「ん……。料理、作った……」
帰りのタクシーの中で、フィーアは無言になってしまう。
「疲れた? どこか、痛い?」
訊いても、彼は無言で窓の外を眺めている。
「フィーア?」