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約束 ~禁断の恋人~
第1章 日常
「食材運搬のトラックに、バイクが巻き込まれたんだ。外傷は殆どないが、ヘルメットが外れて頭部を強打している。運ばれて来た時には、もう……」
父親の言葉の意味が、理解出来ない。
ただ分かっているのは、海が生命維持装置を着けられていること。
それはもう、彼の体の機能が停止しているという意味。
装置無しでは、生きられないという意味。
笑顔で見送ったばかりなのに。昼食を一緒に食べようと言ったのに……。
何も変わりない朝で、何も変わりない笑顔でマンションを出て行ったのに……。
父親に支えられながら何とかベッドへ近付き、目を閉じたままの海を見つめた。
顔に多少の擦過傷(さっかしょう)はあるが、ただ眠っているようにしか見えない。
「海……?」
父親を振り切ってベッドへ行き、静かに上下する胸へ手を当てた。
「海……。嘘だよね……。海、海っ!」
頬に手を当てると、体温を感じる。
この体温も呼吸も、装置を外せば全て失ってしまうなんて……。
「朋也……。どうするつもりだ?」
父親の言葉に体が強張りながらも、海を見つめて首を振った。
“どうする?”
選択肢は二つだけ。生命維持装置を、外すか外さないか。
医療が発達した現代、装置を着けているのは本当に最悪の状態。
装置の電源一つが、彼の命を繋いでいる。
「マンションに、連れて、帰る……」
「本気なのか?」
ただ、頷くしか出来なかった。
僕自身、脳死状態の患者を家に連れて帰るという家族を止めたことがある。それは、家族だけで世話をしていくのに無理があるから。
でも、僕なら大丈夫。
僕はDr.だ。絶対に海を死なせたりしない。
「分かった……」
その声に顔を上げると、父親は院内用の携帯電話でどこかへ連絡をしている。
「朋也。お前はマンションに戻って、ベッドの準備をしておきなさい……」
肩を叩かれ、何度も海を振り返りながら出口へ向かう。