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約束 ~禁断の恋人~
第6章 異変
「フィーア?」
二時間ほどで目を覚ました僕は、彼の部屋をノックしてみる。
すぐにドアが開くと、フィーアはいつも通りの無表情。
「何? Dr.トモ」
「ちょっと来て……」
彼をリビングのソファーへ座らせ、僕はバイオ素材のコーヒーを出してから向かいへ腰を降ろす。
「セックスは、しないって、言ったよね……」
「うん。ごめん」
あまり抑揚の無い言い方は変わらない。
セックスの最中は、情熱的にも感じた。それは、僕が海を想っていたせいだろう。
彼は、海でもカイでもない。研究材料のフィーア。
一度狂ってしまった歯車は、もう止められないのだろうか。
「違う……」
いつもの言葉に、溜息が漏れる。
「フィーア? 何が違うの? ちゃんと教えて?」
彼は何も答えてくれない。それも、いつものこと。
調理部で働く姿は、生き生きしているとさえ感じたのに。そこを出てからのフィーアは、まるでただのヒューマノイドのようだ。
いや、それ以下かもしれない。
ヒューマノイドは決められたことを正確に熟すし、勿論襲ってくることは無い。
フィーアは、どうしてしまったのだろう。
僕が教えてしまったセックスは別としても、ミスが多すぎる。
「違う……」
その言葉に、耳を塞いだ。
何かのバグなのか、移植手術に不備があったのか。
ここでは調べられない。
「そのまま座ってて……。食事を出すから……」
僕は平気だが、彼には食事をさせなくてはいけない。
重い気持ちを引きずりながら、キッチンへ行った。
まだ少し焦げ臭さが残る場所で、バイオ食品だけの食事を用意した。一人分。
食欲は無い。
こんな時海なら、「喰わないと持たないぞ」と、言ってくれたのに。
それはもう、過去の出来事。
二度と戻って来ない、幸せだった日々。
フィーアに食事を出し、元の位置へ座った。