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約束 ~禁断の恋人~
第6章 異変
「Dr.トモは、食べないの?」
「僕は、コーヒーだけでいいよ」
そう言うと、フィーアは無言で食事を始める。
海は、バイオ食品があまり好きじゃない。でもたまに僕が作ると、嬉しそうに食べてくれていた。
フィーアには、何も分からない。
調理部で自然食品の調理はしていたが、マンションでのバイオ食品に関して何も言わずに食べるだけ。
涙が零れた。
もう海の事は、心の奥にしまったはずなのに。
海の体そのままのフィーアを見ているのが苦しかった。
「Dr.トモ? カナシイ?」
「ううん。目に、ゴミが入っただけ……」
そう言うと、フィーアはまた食事に戻る。
このままではいけない。
それは初めから分かっていたが、もう限界に来ていた。
海じゃない……。
僕の愛した海を取り戻したくて、移植手術をしたのに。海の姿をしたフィーアを見ている方がつらいなんて。
あの時は、そこまで考えられなかった。
チップを移植すれば、僕の海が戻ってくると錯覚してしまったが、研究所にいるドライを見て分かっていたはずだ。
ドライの元の性格は知らないが、人間とはほど遠い物体。
話すことや動くことは出来ても、彼らは“Z”でしかない。
学習をする気にもなれなかった。
でもレポートが滞れば、Dr.小早川と父親が不審に思うだろう。そうなれば、どちらかが訪ねてくるかもしれない。
「フィーア。レポートをやるから、食べた後は自由にしてていいよ。キッチンには、入らないで」
また、何かミスをされては困る。
「クエスチョンは?」
「もう、いいから……」
レポートの前には、いつもフィーアに質問をする。それは身についているのだろう。でももう、どうでもよかった。
自室のコンピューターで嘘のレポートを作成し、二人への送信時間を翌朝に設定しておく。
こうすれば、僕とフィーアが今までと同じように生活していると思われる。